あんなにも憂鬱だった リビングに差し込む光で足をぬくめる
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六歳の子にブチ切れている私 二十年後の私よ助けて
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ドライブの好きだった母今ならば分かる私も遠くへ行けたら
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緑児の時期より見知った顔なれば吾子は亡き医師の手には怯えず
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あたたかな こうけいだけを みていたい わらうこだけを みていたい
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「取り壊し」の立札かかる廃屋に的皪てきれきと燃ゆる梅花のほむら
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甘い夢でしたねいっさいがっさいは ドアを開ければ暖かい嵐
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脳内の写真館に入り浸り大事なあの子にそっと手を置く
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脳内の写真館に椅子を出しあの子の前でしばし休憩
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待っててねいつか行くからその時はチュール持ってく猫じゃらしもね
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助けてよ 誰でも良くは 無いけれど 孤独に耐える程 若くないのよ
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透明度30%の富士山をてくてく歩くおばけの私
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血の滲む憎悪でさへも風葬でいずれ綺麗な骨になるから
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キャンディーボール 子が持てば古の竜の護りし珠となりにき
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五月雨の戦場ヶ原炎燃え影なき媼のせなは悲しき
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春キャベツ やわらかくって千切れやすくて もみくちゃの私の芯
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お魚に春って書いてさわらです  春が好きなら好きだといいな
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楽しげな子らの声きく朝の空見上げ我が子の明日をおもう
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ポリポリとスナック齧る14歳幼き君の姿かさなる
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どうしたらいいのかわからなくっても それでも一歩 この子の一歩
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修学の旅に行かれぬ子に友が土産持ち来る やさしさの夜
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連休は 実家に帰れど 家事三昧 この30年 羽休めるは は実母
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おせんたく、曲げ丸まるぬいぐるみ  天日干ししてほんとごめんね
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バスを待つ老婆の指と指輪との隙間の三日月形の年月
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言葉さえ残っていない空っぽで悲しくもないそれが悲しい
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手に入れたのは幸福な思い出でわたしはなにも失ってない
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書き溜めたわたしの歌が寄り添ってくれる一緒に泣いてくれてる
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当たり前の 空気の流れに 流されて 言の葉あふれ 歌詠みにける
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妹が アイス棚前に 二十分 選び取るアイスは いつもと同じ
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あの空に浮かぶ雲みたく風に乗り 君の所へ流れ着きたい
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