泣かなくていい日にようやくなったから好きな色のアイシャドウを選ぶ
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ハルジオンのたくさん伸びた草原でいつもさよならだけ覚えてる
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「大人でも泣きたいときはあるんだよ」「うんうん」と聴いてくれる掛け布団
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朝、川に反射する光の粒で指環をつくってあげたい貴方
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またいつか会おうねを信じられなくて改札通る背中を見てた
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二十九万二千二百五十六年後、元日朝九時前に逢おうよUNIX時間の果ての果ての果て、すべてのうたのおわりがそこに?
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もう二度と振り向かないならせめてその理由は泣けることがよかった
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ふるさとの冬空に夜は更けてゆき降り積もるのは不真面目ばかり
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これじーじ いた孫の絵 目口鼻めくちはな あちこち跳んで じじいもゆらり
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「好きだよ」と言って「ありがとう」だけ返す真意には気づかないふりをする
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黙々と 靴見て歩く道すがら 顔を上げて と桜に言われ
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こんにちは わたしは光線 よろしくね あなたをつらぬく こともできます
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歌詠みで他人ひとの生き方垣間見る改めて知る短歌の世界
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バスを待つ老婆の指と指輪との隙間の三日月形の年月
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人知れぬ痛み悲しみ誰も持ち 短歌うたで知らさる分かつ喜び
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君をふと「思い出した」から あの日々はもう出来事になってしまった
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訳なんて知らなくていい いつかこの片道切符を正解にする
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今われは生きているのだとふいに思うたとえばバスに揺られるときに
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真白き雲みなの思ひを吸ひ込みてふわんふわんと丸くふくれゆく
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今日もまた記憶の浅瀬にて逢はるるきみの姿をいだきて生きむ
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30年前の君から 今届く 宇宙の中ではすぐ そこに居る
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プリントや家の外にも見当たらぬ何処去ったか涼しき午前
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立ち枯れの枝葉に芽吹く翠翅諸声染みて夏かさね着る
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水銀の示す三十生み出した季節真夏は電波で感染りゆく今日
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たんぽぽの綿帽子らのささやきにそよと吸ひ込まれゆく白き蝶
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通帳のゼロを減らした酒を飲む背中の汗疹にカーテンの後光
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庭の木の枯れ葉が落ちる音を聞き祖父の足音かと思う盆
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モテ期とは三度くるらし それならば老人ホームのマドンナになろう  /まだモテ期が来ない
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優しさに 慣れることなく 「ありがとう」 気持ち忘れず 君を想うよ
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傷つけず 壊さぬようにと 触れる指 和らぐ時間 解ける心
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