フード越し風が鳴るのを聴いている星瞬いて流れて消えて
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寒さ増し 形見の衣 まとふ冬 妻の帽子と 父のジャンバー
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雨あがり 澄んだ夜風に 洗われた 桜の枝に 蕾が一つ
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蝋梅ろうばいの 花芽迎へし 山寺に 母の手引きて 歩む石段
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ベランダで「どこから来たん?」ひとりつ 日なたのまろき てんとう虫に /九階
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六十路なる吾の通信簿 理音四 国美社が三 数体下がり二
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腹を押す医師の温もり身に沁みて眠りに落つる冬ざれの夜
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想い出は街をぐるりと歩いた日 兄の遺した紬をほどく
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どの家も玄関明ければその家の安堵と云ふ名の匂ひがありて
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東北の冬の青空ありがたし磐梯山の雪の輝く
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寒空のもと ひっそりと葉の裏に 剪定逃れ 残る空蝉うつぜみ
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寝つかれぬ虎落笛もがりぶえをも聞こえぬ夜三十一の糸編んではほどく
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ほお紅く染めて抱きつく妹が本当はいそうな雪の降る午後
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旅立った 家族を思ひ 見上げるは 星が輝く 新月前夜
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難しき講義のあとの自販機でコーンポタージュ選ぶ冬の日
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いつしらに施設の暮らし一年に義姉あねの肌着の名前薄らぐ
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裸木はだかぎになりぬ 初冬の百日紅サルスベリ 牡鹿の角の如 美麗びれいなり
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はだいろがピンクベージュと名を変えて澄まして座るクレヨンの箱
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愛犬の逮捕に走る 転がったワインのコルク咥えて逃げた
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一列にまとまるムクドリ鳴くを止め首傾げ見る駅向かふ人
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「家じまい無事に済んだよ父さん」と墓に供える白い秋桜
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昼下がり編み物しながらイカ大根ことこと 冬の至福のひととき
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さき手に希望いっぱい握りしめ父にいだかれ眠る赤子よ
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柚子玉と四つ割り南瓜買ったから年末に向けひとマス進む
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軽々と大き除雪車あやつりて百人力の隣の亭主
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あるがまま受け入れようか抗おか 加齢の波にゆらゆら揺れて
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吹く風に飛ばされ来たか庭の隅アシナガバチの死骸が二つ
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病みあがりリハビリジムの笑顔にも立てば千鳥の震える枯野
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木の間より差し来る朝日サンゴジュの僅かに残る熟れし実照らす
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乾燥し痒み止まらぬ冬の肌ニベア青缶手放せぬ友
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