蜻蛉がとんでもひらく自動ドアこの魂にちょうどいんだわ 

息継ぎのたびに増やしたアカウント ここの酸素ももうなくなった 

霜柱踏まれさっくり音鳴らし何かを支えることもないまま 

やっぱりね待っても来ないキシリッシュとっくに味が抜けてしまったわ 

心にも使い捨てカイロ貼ったなら「あったけぇ」って微笑むかしら 

からっ風の匂いする君その頰は雪の匂いもする君は季語 

ともすれば世界の印刷ミスであるあまりに電灯だらけの夜景 

右手上げ星に向かってジャンプする十六歳の俺は無敵だ 

二組の万年布団の片方が謝るように畳まれている 

何を食べ誰を神様としてもよい 私を好きになってもいいし 

遠くなら美しいまま、朽ちぬまま。記憶の瞳、近視であれよ 

下顎骨細く震わせストーブの前で足ぶみ今日は小雪 

その瞳運命が乗って揺れている脇役はそう、ヤツじゃなく僕 

モテ話の友の自慢に耐え続けシャンプー中のミケの気分だ 

ばあちゃんの肺がん転移してないって爺ちゃんそっちで彼女できたな 

感情に網目のような血液が走り出すから夕暮れが好き 

想像のつばさをオプション装備した自転車なので夢で飛べます 

野良猫と海の香りとキオスクとあなたと暮らすこの街が好き 

どこにもない函館の海聴きにゆく この特別な夜覚えているの? 

金色のスプレー舞って冬を嗅ぐ籠に盛られた蜜柑むくゆび 

うそをつく痛み無くして路地裏を歩み生きるかへのへのもへじ 

わたくしの祈りが宿り手塩かけまばゆく育てば「きらい」と言われ 

飛行機のお腹を眺む夕暮れはカレーの匂いで我を鎮める 

夜明けごろ断捨離された者たちが小夜をともない打ち寄せてくる 

次々とあなたの願い叶いますようにと銀杏きんの葉がいて降る 

飲み込んだことばも吐いて青空で風葬するため飛ばす風船 

もう少し、もう少しだけと止まらぬ手 痛い目見るのは明日の私 

昨日から続く明日が今日ならば、私は私をいつやめようか 

無能でも生きていいのだ俺を見ろ、と言えるほどの無能でもなく 

寄る辺ないテーブルひとつ用意してぬくもりみたいな鍋を囲もう