の机使ひて思ふ引き出しの何処に悩みを仕舞っていただろ
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まだわたし道を聞かるる人にあり冬海岸にほのと南風はえ 立つ
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急患の我乗せ闇裂くハンドルに娘の手あり初の高速
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前歯ない姪が「ひみつ」と金平糖くれてゆっくり溶ける手のひら
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三十路みそじにて天に召されし君の子の訃報に嗚咽の涙が滲む
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バゲットを竹刀のように持つ母のシチューの味に辿り着けない
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五平餅売らる茶店の灯も落ちて紅葉祭りも日暮れて終わる
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刺し子模様 ひと針ひと針色重ね 無心の先の華やぎが良し
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還暦を過ぎれば時間ときは滝のごと流れ落ち行く悩む間もなく
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冬を耐え花を咲かせよ林檎たち陸奥に明るい春を呼ぶため
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ほほ笑みは 生後三日の が語る キユッ とあがった ピカピカの頬
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歯科に停められた車は全て白 差し歯するごと吾も駐車す
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北風の冬の朝には日が澄んで歌の言葉をほどいてくれる
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新聞の暮らしの作文音読す五回つかへし自分の声聞く
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足跡は新雪踏みて倉庫まで「犬のトイレはここではないよ」
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三十年ここで寝たんだ このベッド あるじ無き部屋 淋しさつのる \ ようやく独立!
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町内のコスモス咲きし空き地には家が建つらし整地がされて
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三十年住み慣れた家を後にする また新婚ね 小さなアパート
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七割は幸せな人が三割を補充しに行くコメダ珈琲
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母伏して 徹夜付き添い 入院し 『帰りたい』との 母を説き伏せ
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積む雪のはじめは六花ひとひらのあまねく広く銀世界見ゆ
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財布から証明写真こぼれ落ちあの頃の僕と不意に目が合う
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死ぬ人は不幸ではない無になって解放されて忘れ去られて
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滝の音聞こへ来そふな油絵の水霧飛び来て吾にかかるごと
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冬の夜救急に立つ半袖の温きナースのみ手にゆだねる
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可愛いさの裏に秘めたる「毒」に似た「苺」は赤い最終兵器
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解けて降りツルツル路面の出来上がりそっとすり足 雪降りつづく
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黄金の花梨をぎし指先に可憐な花の面影を追ふ
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地獄へと続く道のり振り向けばあなたのくれた優しさの花
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無為むいのまま 降りつづく雪 こうなれば 有為ういであろうか 飛ばない飛行機
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