サクレ食べ、輪切りのレモンに思い馳せ、「この夏その身を再び一つに」 

暑い日にみぞれ蕎麦食べ おろし金 どう洗うんだ 手が血まみれに 

がたごとと揺れる電車がよびおこす母を選んだ胎児の記憶 

海と空の青さのような線引きが男女にもある5年3組 

ダイニングテーブルに積む一月ひとつきの新聞分の恋をしていた 

赤い糸の耐久性の実験をしてる浮気は許せないけど 

つりがわを握る電車のなかでなら一人でいても孤独じゃないさ 

「長野はさ、りんごがおいしい?」シードルのコルク抜きつつ反芻する夜 

忘れない見上げた君の耳たぶに遠く三日月揺れていたこと 

突き抜ける空の青さと蝉の声 あの日と同じ朝が始まる 

軽い近視だから十六夜月いざよいの欠けとかあなたのこころとかが視えない 

定食の味噌汁を取り忘れてたことに気付くように気付く恋 

平熱が35.5度だから 恋するだけでのぼせちゃうんだ 

どうしても不幸ぶりたい日もあって流血しない範囲で深爪 

後れ毛を垂らす案配わからずに襟足にあてる生真面目な櫛 

朝方に避けた行き倒れの蝉が粉々になりそうな夕方 

大好きな君の名前をこの夏の季語にするにはどうしたらいい? 

ぼくたちの魂の凹凸かたちぴたりとは重ならないから隙間で踊る 

満月を卵液に浸し焼いていく職人住まう真夜中キネマ 

夜明け前推ししか勝たんと呟いてその一言が遺言になる 

「死にたい」は言っちゃだめかな、じゃあえっと、「能登に行きたい」ならどうですか 

「もういいよ」、そう言って突き放してよ、泣きたい秋が来てしまうから 

無内定 増える吸い殻傾く陽 何もなくてもこれは我が夏 

帰宅して麦茶ポットをこじ開けて一杯分を残して戻す 

赤色の大きな橋が色あせて霜降り肉に似ている正午 

遠くから近づいてくる夕立を感じるタイムラインの「雷」 

水滴が煮立った油で跳ねたよに 七年前は何してた と 蟬 

夏の夜 臨海浮かぶ烏賊釣りの 灯りか酒か 赤面の父 

湖のような孤独に身を沈め肺まで満たせモネの青色 

臆病な指が「あそぼ」を消していく 流行病はやりやまいを言い訳にして