注射をし 食事も食べさせ 便も拭く 訪問看護師 魔法の手を持つ
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手のひらの平野に失せてしまうほどちいさき薬はとおいような白
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キーボード、マウスにスマホ一斉いっせいに充電切れて からっぽの朝
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変はりゆく 空の青さに 似た色の 海の青さを 忘れはしまい
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花柄の タオルケットを広げ干せば 黄金虫来てはね休む 秋
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電池切れ リモコン・スマホに連鎖して 我れ息潜む終の住処に
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「老いたれば閑古錐かんこすい なる人たらん」願いは虚し「はしさきしゃもじ」
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この道も四月になれば使わない最後に君を笑わせてみたい
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ひとつだけあの世にもちこめるのならあなたにします うれしいでしょう?
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目標の 資格試験に 合格し 解放された休日嬉し
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立冬りっとうは こよみうえで ふゆらしい わたしうえで 雪降ゆきふるとふゆ
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父親になりたかったな人生で一度は人に愛されている(から)
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公園でカラスが啄む吐瀉物が 遠く未来のあなたに見えた
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ローマ字を叩いて冷える オフィスにもあなたの指先持ってこれたら
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駅前でお茶割り隠して呑む叔母に入院勧めた2003年
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玄関の ドアを開けたら べつの顔 帰ってくると またもとの顔
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いろどりのさかりのなかをバスすすむゆらりゆらゆらいろはにほへと
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ページから栞にされた葉が舞ってようやく落ち葉になれる古書店
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髪型が 納得いかず お昼過ぎ そんなことみな 知るはずもない
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朝晩が寒くて昼間が暑いのは 月と太陽がデートしてるから
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近すぎて 見えないものが あるのなら 離れてみると あまりに愛おし
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黒いとか苦いとかいうことさえも魅力に変えてる珈琲が好き
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退屈な日々の合間に美しい瞬間ときがあるから明日も起きる
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図書館に君がいないからコンビニで苦い香りのレモンを買った
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門脇かどわきひいらぎの花ほころびて別れ近づく冬は来向かふ
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鳴り続く電話に出れば直ぐきれぬ多分詐欺かと思ひて不快
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越えようと乗りたる落葉傾きて驚く蟻が逃げて行きたり
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本当の己をかげりとしてうつす魔法鏡のようなる窓枠
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行く秋の山里人やま・さと・ひとに跡残しホットココアに沈み込む夜
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窓際で 花瓶に挿した 切なさが 揺れているだけ 揺れているだけ
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