八月はちがつの光る地面に百日紅こずえの影を揺らして燃える
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戰犯とは不肖の綽名われいくさに倚らざれども死なず
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國民総戦犯ゆゑに絶たれたる昨年の忠魂碑はたれのはか
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われ義しき國民なれば崇拝すクリスティアーノならず 墓を暴かむ
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復活祭へにがき蕗煮ていもうとはロザリオなどゆめかけざらむ
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父殴てる馴犬哀し。頸枷に「愛われを創れり」彫られて
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神神に主神のあらば 靑藍の仔を降しまづ人間を亡ぼす
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ぎっくり腰これも気圧のイタズラか 台風一過そろりと散歩
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期せずして三度帰省のこの夏に 悲しみの中にも故郷は嬉し
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ハッとした 能面のよう母の顔 もう一度見たいよ昔の笑顔
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歩けぬが可哀想とは言わないで 老犬キミは大事な我が家の希望
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寝ることが仕事の老犬昼時は しっかり目覚めてオヤツをねだる\体内時計?
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窓際で外に向かって最敬礼 思わず笑みがこぼれた 豆苗とうみょう
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種々くさぐさの虫の音色を聞き分けて秋の夢の中で覚めたり
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青柿の枝をはなれて地に落つるまでの時間を思い遣る朝
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眠れない夜ひとり作るオムライス 丁寧に丁寧に慰める
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歌いつつ自転車を漕ぐ人が行く秋の真昼の心地よければ
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ふみしめた冷たい土が呼んでいる わたしはいつかあの中にゆく
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ああ犬よ毛玉散らしていた柴よ 瞳曇っても愛しかったきみ
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思い出は電車に乗って帰り道川面に映るみかんの夕陽
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真白な猫の毛並みをお手本に 清くフカフカ生きると誓う
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枯枝に風の浮かべる月の舟響き冷たき銀色の笛
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有明の月の白さを手に受けて雑木林の梢に落とす
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東向きの窓たちみんな輝いて朝を迎える瞳となりぬ
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高い空飛行機ゆっくり交差して西と南に見えなくなった
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独りでに望まぬ道を行く思考 自分も自分の敵なのだと知る
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自我のかじ 乗っ取り企む復讐鬼 憎しみ消せる消しゴムが欲しい
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一月の日射し明るき林間を母と歩けば冴ゆる阿夫利嶺あふりね
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年を経し杉の根元は影差して朝日に映える梢の緑
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冬と春満天の空掻き混ぜて入れ替わりゆく如月の夜
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