亡き母の過ごした和室西日差し花なき花器の影だけ伸ばす
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足音も気配もさせず忍び来て金木犀の突然の秋
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思春期の頃思い出し図書館で手に取ってみる立原道造
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俺が死んだことを伝えるニュースでは「自然淘汰」と書かれた死因
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天才に生まれてきたので君の言う罵倒が一つも理解できない
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家を出た 10年ぶりに借りた部屋  ドアまでスキップ 新しいカギ
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君からの電話に出るのを耐えながら 叶わなかった未来を想う
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「離婚する」「元夫」という言葉から 急に視界みらいが明るくなって
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今年はね「歓喜」と「耐える」年だった 来年こそは実を結びたい
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亡き父が丹精こめし白梅を元旦なれば玄関に置く
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ハイターに心臓を漬け泣きながら取れない汚れをこすり続ける
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スクープで時代が変わる日本国 浮かれし日々のデジタルタトゥ
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朝早く 豆腐売りの 笛聞こえ 道に飛び出す 主婦と野良猫
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拝まれてもこんなに多くはきけません 初詣にて神様ぼやく
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難しい馬鹿になるのは それ故に中途半端な男でござる
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発表13時 瞬間滲む 6038 サクラ
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この先の未来のどこか予約するように見初めて買うワンピース
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春風が撫でたところが泡立ってゆくように花ひらく白梅
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とりどりの油彩で花を足すようにランドセル群れゆく通学路
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からっ風 肩すくめても一人きり  ポケットにいれる右手左手
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ビリジアン 名字が戻る瞬間がやってきますよ お見逃し無く
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ラジコさま ラジコ様様 ありがとう 東の空気 ありがとうさん
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御嶽山 越えし列車に揺さぶられ 思い出さえも 揺らぐ昼方
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死んだのにまだ気付けずに照明のつかないトイレで戸惑っている
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さみしさが周波数あわせるように溺れるほどの夜の静けさ
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君なりのオネムのサイン 夜時 口尖らせて目をこすったら
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水切りで回復をする花ぼくも過去を忘れて生きながらえる
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さまざまな港を船が寄るように猫が日陰をめぐる真夏日
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雨の日の良さをかぞえる少しだけ苦手な人を薄めるように
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死んだあと俺の日記が『かわいそうな ひと』って名前で本屋に出てた
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