頑なに夏は綿と思ってた 確かに涼し エアリズム着る
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空爆で殺戮さつりくされる子ども達 チャンネル変えれば五輪の歓喜
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気が付けば ひこばえ青々繁ってる ああ、生きてるね 桜の切り株
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朝起きて空見上げれば赤トンボ 信濃の朝はもう秋かしら
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シオニズム 角砂糖水へと溶けて水薔薇国家の仔羊の頸
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わたしヒトラー。わたしロベスピエール。もしもし。ユダヤ人を――
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基督をひとはもとめむさでもなほ――、無棘薔薇冠など編みて刑吏
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「あたしたちのイエスさまが変になっちゃったのよう」魚眼レンズ直視
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人草絶ゑて弔鐘へ祷る慰霊碑へ霙 皇帝とは誰なるか
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敗戦忌 すめらみことへゆくすゑをしめし若き柩工は死せり
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戰犯とは不肖の綽名われいくさに倚らざれども死なず
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國民総戦犯ゆゑに絶たれたる昨年の忠魂碑はたれのはか
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知らせ受け義兄あにの葬儀の準備する 近づく台風 不穏な朝に
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蝉の声 嵐の前の静けさか 手持ちぶさたにシフォンケーキ焼く
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ぎっくり腰これも気圧のイタズラか 台風一過そろりと散歩
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期せずして三度帰省のこの夏に 悲しみの中にも故郷は嬉し
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ふみしめた冷たい土が呼んでいる わたしはいつかあの中にゆく
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ああ犬よ毛玉散らしていた柴よ 瞳曇っても愛しかったきみ
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とん、とん、と幼きわれの背をたたく母の指にも似たる雨音
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いつもより数分早く出た朝は空も街もなんかパステル
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ガチャピンよおまえはどこを目指すのか己が極地の地平線行く
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冷めきった紅茶をレンジであたためる心の温度は取り戻せずに
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病床の猫にチョッキを編んだ日は独りぼっちの今日を知らない
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人生を達観したかのそんなふうまるであなたはみつをのようだ
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マフラーからはみ出た耳たぶの林檎色きみがかわいく色付く季節
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高い空飛行機ゆっくり交差して西と南に見えなくなった
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独りでに望まぬ道を行く思考 自分も自分の敵なのだと知る
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自我のかじ 乗っ取り企む復讐鬼 憎しみ消せる消しゴムが欲しい
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柚子の木に柚子の実のなる庭ありて売却物件なるぞわびしき
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一月の日射し明るき林間を母と歩けば冴ゆる阿夫利嶺あふりね
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