朝摘みの新茶なれども人は言ふ。「八十八夜の長寿の薬」と
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ベッド脇 もたれてスマホ眺めたる夜の シトシト窓叩く雨
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てのひらに落ちた桜を水浮かべこの静けさで今日を始める
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あなたのこととなると逢うときも逢わないときもどうにもならない自分
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ハイキング身仕度整え電車乗り ふと気がつけば周りは仕事着
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職人の誇りがすごく傷ついた痴漢冤罪かけられた掏摸すり
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半減期 永い時間が経過して 毒の力も珠の光も
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雨上がり窓枠が春を連れてきて「頭痛がする」と春病の母
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生徒らは散り散りになり忘れられ 発掘されないタイムカプセル
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記念だの思い出だのを貯め込んた ガラクタ箱は発酵しない
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早朝の庭さえ煙る雨上がり薔薇の香りが淀み動かぬ
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躓いてアイスの先が跳ね飛んで大泣きした子いま三十五
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つばくらめ空ひるがへり急降下まなこで追ふも秒で消へさる
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杖つきてセルフレジに挑みしに後ろの行列湯気立つもあり
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引き抜かれ花二つあるスナップ豆スナップが地に横たわり鬼のを見る
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思いがけず新聞掲載の報を受け老医われにも力みなぎる
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菜園に 紋白蝶が飛び舞いて 猛暑の序章初夏は来たりぬ 
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春の陽にもてあそばれて町ゆけばカーペンターズ口ずさみつつ
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教科書を毎日忘れていたやつがちょっと心配になる五月は
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透明に開いた傘に小さくて黄色い未来 雨は上がるよ
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真夜中のドアはでっかい猫じゃらしぼくはいつでもきみを待ってる
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海の塩っ辛い味さえ知らないのカツオノエボシは知っているけど
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ゆってぃがワカチコワカチコ言っている「島崎?」母さん、それは和歌子よ
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あなたからもらった金のネックレス、メッキがはげてあなたらしいね
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三万円のプレミア本を四千円で買う今日という暗がりに差す
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保護費では誰も満たせず我が身から抜けた長髪誰かへ集める
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大切な子供を産んで引き裂かれ死に損なえば私ゴミだな
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理由わけあって大事にされるパンダたち理由わけありだけは私負けない
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帰っても入れてはくれぬドアノブがガン、と伝える鍵の頑強
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ごめん、俺 もうひとじゃない 心失く 憤怒で朽ちる 殻の人形
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