千葉甫
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カメラから視線の逸れた瞬間があの日の記念写真に残る
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廃屋の庭に茂った冬草のところどころに真白い小花
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冷えきったタイルに伸びている影が歪んでいってナメクジとなる
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高層のビルに群がる鴉らの上にあかねを帯びてくる雲
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十字路をよぎる人影、犬の影、斜めによぎって行く鳥の影
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卓上の一つの林檎りんごに映る灯があって夜のゆく声の無い部屋
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背後から過ぎ行く黒いヘルメットにまるくうつって今日の落日
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読みしの本を閉じれば隙間風触れて首筋冷えるこの夜
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去って行くバイクを聞いて朝刊のはいった音と知る夜明け前
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朝の雨ところどころに濡れ残り空の光を映すこの朝
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年賀状投函予定の前日に急逝告げる喪中のはがき
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ともる灯の明るさ増しつつ急速に雲は厚みを増す窓の外
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カーテンのざしにぴこぴこある影はひさしに突き出た雀の尻尾しっぽ  
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音低く吹くハーモニカ少年の日の記憶から拾い出しては
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一度だけインターホンの鳴ったあと降り続いている夜の雨音
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不透明ガラスの窓の夕光ゆうかげに塀行く猫の大いなる影
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日記帳開いたものの昨日とは代り映えせぬ日だった今日も
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いているギターの曲に遠い日の絃の感触かえる指先
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夜は冷えて目覚めるたびに一つづつ電気シーツの目盛りを上げる
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満ち満ちた陽ざしの中の紅葉をきらめかせては過ぎて行く風
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みどりごのむずかる声に愛のある笑い声立つ待合室に
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灯を消して闇の中から蛇口より滴る音に呼び戻される  
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陽光の満ちた明るい通りまで冷たい日陰のこの道がある
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雲割って店の奥まで射した陽にこちらを見ている眼鏡の光る
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一枚の落葉も歩道に見えなくて裸木はだかぎで立つハナミズキの木
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探しものしていて出てきたこの写真撮ったあの日の揃っていた顔  
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眼が覚めて仄かな白の満ちた部屋ここから見えない月の光に
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店先の椅子に置かれて行く人らを見つめ続ける手書きのメニュー
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暮れてゆく部屋の机上にスリープの明りの点滅するコンピューター
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朝の窓開いて今日も遠く立つ桜紅葉さくらもみじの輝きに会う
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