千葉甫
1
2
投稿数
85
なめらかに音も立てずに秒針の回り続けている待ち時間
11
来週は強い寒波が来るという今日の陽ざしに羽虫の光る
12
したたった水が床から眼のように光って見上げる真夜中のとき
12
忘れないようにメモしておくことをすっかり忘れていたのに気づく
12
側面に夕陽の照っているビルの暮れた窓にはともる青い灯
8
『行けなくて御免ね」と言う再生の留守電から来る聞き慣れぬ声
11
見るともなく見ていた遠い窓の灯の消えて私もそろそろ寝るか
13
暮れてから降り出してきた雨音を聞きつつ眠る静寂しじまに覚める
11
人逝ひといって家の解かれての失せて金木犀の匂わぬ今年
20
見上げれば青一色の空を背に紅葉映えるハナミズキの木
11
眼の隅でとらえたものは卓上に立つ空瓶にうつった私
15
床板の軋んだ音にはっとして目覚めた夜の月の明るさ
12
見下ろした舗道にうつる灯のあって今日の終りはいつからか雨
14
私には気づかず過ぎて行く人の薄い陽ざしに曳く薄い影
11
足元を吹かれていった一枚の紅い木の葉を折々思う
10
ハナミズキ通りへ折れて紅葉は今が盛りの一樹に出会う
9
今日からは住む人あってカーテンをなびかせている四階の窓
21
取り敢えず答礼をして擦れ違う誰だか思い出せないままに
19
LPレコードの最後の曲の音絶えて陽ざし静かなカーテンの外
18
暮れ際のざしの低く伸びていて光る舗道の凹凸おうとつを見る
17
甲高かんだかい急ブレーキの音のあとことなく過ぎてゆく夜のとき
13
電線の先の先まで連なった鴉らを見る ふと目を上げて
9
鴉らの道を隔てて交わす声 スタッカートの応えもあって
7
完成の間近な家のともされて金槌を打つリズミカルな音
11
中空に声を交わして群れている鴉ら徐々に去りつつ暮れる
14
荒庭にカンナの花の咲き残る一輪あって風冷えてくる
11
目が合った馴染なじみの猫の挨拶あいさつ尻尾しっぽを立てる躊躇ためらうように
15
真夜中の通りを抜けていった音 車だったかそれとも風か
15
朝空の薄墨色に架かる虹 道をまたいで屋根から屋根へ
12
こともなく行く日の暮れの窓外を音無く過ぎる赤い閃光
7