千葉甫
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取り敢えず答礼をして擦れ違う誰だか思い出せないままに
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LPレコードの最後の曲の音絶えて陽ざし静かなカーテンの外
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暮れ際のざしの低く伸びていて光る舗道の凹凸おうとつを見る
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甲高かんだかい急ブレーキの音のあとことなく過ぎてゆく夜のとき
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電線の先の先まで連なった鴉らを見る ふと目を上げて
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鴉らの道を隔てて交わす声 スタッカートの応えもあって
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完成の間近な家のともされて金槌を打つリズミカルな音
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中空に声を交わして群れている鴉ら徐々に去りつつ暮れる
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荒庭にカンナの花の咲き残る一輪あって風冷えてくる
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目が合った馴染なじみの猫の挨拶あいさつ尻尾しっぽを立てる躊躇ためらうように
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真夜中の通りを抜けていった音 車だったかそれとも風か
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朝空の薄墨色に架かる虹 道をまたいで屋根から屋根へ
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こともなく行く日の暮れの窓外を音無く過ぎる赤い閃光
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唐突とうとつに近くへ下りてきてはずむ雀一羽と私との朝
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散り残る木の葉いく つかカーテンに影を落として揺れるこの夜
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閉め忘れた窓に気がつく室内に雨の匂いのこもり始めて
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コンビニのレシートはさんでいたページ開いて次の展開を読む
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ひとときは厚みを増していた雲の薄れて夕陽が滲み出てくる
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草の葉の大きく揺れて突然によぎって行った一陣の風
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首筋に空気の動く気配来て見回す夜はただ更けてゆく
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まだ青い葉群の中に紅い葉が点々と出るハナミズキの木
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暮れてからしばらあかりのとも窓カーテン開くことのない窓
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窓際のブロック塀は猫の道いつもの猫と暫く見合う
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紅葉の一樹輝く窓からの眺めの遠い木立の中に
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青空の雲を見ていた眼を閉じて私も漂う雲と一緒に
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夕茜ゆうあかね薄れていった大樹からいま浮き上がってくる丸い月
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海からは遠い此処ここまで二度三度船の汽笛きてきが来る今日の風
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雲割って一気に落ちてきた陽ざし秋とは思えぬ重たさがある
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蛇口から落ちてくる水てのひらにぬるくて秋はさらに深まる
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落ちてきた声に見上げてよぎり行く鴉一羽を見る月の夜
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