医師脳(いしあたま)
0
14
投稿数
952

 半世紀以上も昔のこと。
 青森高校で古文を習わされた。教師の名は忘れたが、脂ぎったオジサン顔と渾名だけは覚えている。
〇「無駄だよ」と十七のころ厭ひたる古文の教師の渾名は「ばふん」
 そんな生意気盛りが古希をすぎてから短歌を詠もうとは……。
「一日一首」と詠み続け、気づけば(内容はともかく)数だけは千首を超えた。
 いわゆる「白い巨塔」で生息していた頃の習慣だろうか。
 自作の短歌に『しちじふのてならひ』と名付け、医師脳(いしあたま)を号した。
〇七十歳の手習ひなるや歌の道つづけてかならず辞世を詠まむ
〇満帆に〈老い風〉うけて「宜候」と老い真盛り活躍盛り
〇うれしきは毎朝いるる珈琲に「おいしいね」と言ひて妻が笑むとき
〇生き甲斐が働き甲斐なる生活に「老い甲斐あり」とふ痩せ我慢もなす
〇「先生」と呼ばれ続けて半世紀いまや符牒のやうなものなり
〇「日々一首」と詠み続けたし一万首。吾も百寿の歌詠みとならむ
〇人生の川にも澪木(みをき)を立つるごと刻舟とならざる一日一首を
〇老いはてて彼も汝も誰か薄れ去りいずれ消ゆらし吾の誰かさへ

雷雨やみ日差はすでに夏本番! 猛暑酷暑の先触れならむ
8
雷雲下、JAL143のアプローチ。モニター眺めつつ手に汗にぎる
4
山形の里芋をもらふも食ひきれず畑に植えしが律儀に芽をだす
11
黄道の春分よりはや八十度。暦のうへでの入梅ならむ
6
二十年はたとせ経し鉢植のパキラの切断せし太き幹より新芽が二枚
8
六月に求めし真赤なりんご二個。産地を見ればニュージーランド
4
子らからの宅急便のあひつぎて冷凍庫うめる博多や出雲が
21
文旦の大きな種をすてられず小鉢のふゆる芒種の候か
6
文旦の種より出でし苗にして日ごと枯れゆくアルビノ二本
5
強風に折られし九輪の芍薬しゃくやくの薄紅と白と大壺にあり
4
閉院せし山口医院の売値なる二千七百万円に邯鄲かんたんの夢
5
岡山の暑さをみやげに妻もどり今日の津軽は三十一度
15
冷蔵庫に妻の作り置きし惣菜のなくなりて今日はスーパーにゆく
5
八時半にスマホの鳴りて妻の声「おはよ!」のあとは「ごはん食べた?」と
5
岡山の息子夫婦に招かれて旅立つ妻に「楽しんでこい!」と
8
旅慣れぬ妻に飛行機の「予約済QRコード」のプリントを渡す
4
窓際にならぶ鉢植はそれぞれの形質たもち命をつなぐ
7
「大満」での収穫見込み「小満」に葉の繁茂する無花果を切る
4
アボカドの種の薄皮を剥ぎとりて小鉢に植ゑればつるり禿頭とくとう
6
セーターでは我慢できずにヒーターのスィッチをオン!「小満」の候なれど
4
衣替の時期とは言へどセーターの着脱きぬぎでしのぐ朝昼晩と
4
窓際のパキラの太き幹ながめ二十年はたとせまへの小鉢を想ふ
9
冬の季語「寒風」やまず肌寒くセーターを重ぬる小満の候
4
小満の候とは言へど肌寒く仕舞はんとせしセーターを重ぬ
3
「また来週!」と手を振り帰る木曜日。老いには週休3日がよろしも
7
持たされし院内PHSピッチが外来のナースの声で「準備ができた」と
8
窓際のアンテナが捉へし流星のマゼンタに輝くプラズマエコー
6
古代ギリシャ語の「Logos」由来のロゴセラピー。そを唱へしViktor Franklを偲ぶ
5
芳醇な香に導かれ庭隅の竹柵に咲く白藤をみつく
7
花苗のセールの札にさそはれて散歩のついでに求め来たれり
7