医師脳(いしあたま)
0
13
投稿数
897

 半世紀以上も昔のこと。
 青森高校で古文を習わされた。教師の名は忘れたが、脂ぎったオジサン顔と渾名だけは覚えている。
〇「無駄だよ」と十七のころ厭ひたる古文の教師の渾名は「ばふん」
 そんな生意気盛りが古希をすぎてから短歌を詠もうとは……。
「一日一首」と詠み続け、気づけば(内容はともかく)数だけは千首を超えた。
 いわゆる「白い巨塔」で生息していた頃の習慣だろうか。
 自作の短歌に『しちじふのてならひ』と名付け、医師脳(いしあたま)を号した。
〇七十歳の手習ひなるや歌の道つづけてかならず辞世を詠まむ
〇満帆に〈老い風〉うけて「宜候」と老い真盛り活躍盛り
〇うれしきは毎朝いるる珈琲に「おいしいね」と言ひて妻が笑むとき
〇生き甲斐が働き甲斐なる生活に「老い甲斐あり」とふ痩せ我慢もなす
〇「先生」と呼ばれ続けて半世紀いまや符牒のやうなものなり
〇「日々一首」と詠み続けたし一万首。吾も百寿の歌詠みとならむ
〇人生の川にも澪木(みをき)を立つるごと刻舟とならざる一日一首を
〇老いはてて彼も汝も誰か薄れ去りいずれ消ゆらし吾の誰かさへ

二十四度にじふよどの最高気温に岩木山の雪形ちぢみ初夏モードなり
11
沈丁花の香にさそはれて庭見しに花ならずまだ蕾にてありき
10
「おはよ」とふ喜寿をむかへし妻の声に春風駘蕩のひびきただよふ
8
検診の「異型上皮」の判定に印押す気持ちはアンビバレント
7
不慣れにて処置オーダーの入力を女孫めまごのやうなナースに教はる
8
外来でフリガナを呼ぶも返事せず漢字にうなづくは姑娘 クーニャンなりき
7
リナックスで再稼働せしめしパソコンもXPなればつひに天寿が
7
青空に残雪きわだつ岩木山おやま見てつい掌をあわす吾は津軽衆
14
連呼せし名の絶叫も聞かぬまま一票を投ず弘前市長に
6
「一人前の歌人」と言はれ嬉しくも詠み難くなる自意識過剰
10
おもへらく「一日一首」の七年余さらにつづけむ辞世詠むまで
12
たかがよりされどの似合ふ便秘症。生命予後まで左右すらしも
9
万病の元と呼ばれし風邪なれど今や便秘も侮れがたし!
7
外来の「ブログはじめました」の張り紙のQRコードにスマホの音なし
11
氷雨ふる年度初めの出勤の間際にあたふた手袋さがす
9
蔵書類の断捨離せむとかぞへしも二千冊をすぎて気力失せたり
14
二株のクリスマスローズや雅なる赤白橡あかしろつるばみ青白橡あおしろつるばみ
9
大雪で折れし令法りやうぶ躑躅つつじありてあはれに思ひ鋸を引きたり
9
「週末が待ちどおしい」といふ感覚が何年ぶりかで蘇りけり
10
久しぶりの週休二日の出勤に生き甲斐おぼゆ。二時間なれど
8
非常勤の年間契約を更新す。エィプリルフールの日とは知りつつ
9
LILIDOG!その究極の軽さゆゑレトロパソコンで動画たのしまる
7
巷では人事異動に泣き笑ひ。そをみて我は悠々閑々
8
Windows7とふラベルかすれしパソコンもLMDE7なら普段遣ひに
8
壁際のアンテナ線を外にだし受くる電波や黄砂をこゆる
9
雪折れせし桜の小枝に八重三輪。すでに花瓶は春盛りなり
15
この春よりシニア女性の健康をサポートせむと爺医の我は意気込む
8
5:30ごじはんの数字ながるるディスプレィにじりじり射しこむ黄金こがねの朝陽
12
ディスプレイのダーク設定にて短歌うた打てば白抜き文字があやしげにならぶ
10
雪のないベランダ脇には四五人のコロポックルのごとく蕗の薹たつ
19