恋慕には音も匂いもないのだと知らずにすれちがう交差点
9
たどりつくことができないほんのすぐそこにあるのに順乱すもの
5
東路に見るだに悲しかきつばた都を遠く隔つと思へば
7
久しぶり日頃の憂さを持ち寄りて笑いに変える老い盛りなり
7
吊り革がみんな並んで揺れていて 春の気配にはしゃいでをり
6
飛んで火に入る珈琲と聞こえたり 確かに豆は跳んで火に煎る
5
雨降りの部屋干しはまだ乾くまいなのに手を出す手直ししつつ
4
雨に満たされコーヒーも牛乳で割りつつそっとクリーム拾う
3
吐く息をわざと弱めて傘の中 副流煙と雨宿る朝
3
うららかな水晶みたいだ葉にしたたる雫は雨に満たされて
3
草いきれ 雨降る春野 束の間の水浴み  光宿せる夏へ 
6
引きて堰く苗代水のいかなれば過ぎゆく春をとどめかぬらむ
6
ちんまりと 箱におさまり 寿命待つ 宇宙を背負しょって 生まれたはずも
17
肉じゃがの旨み確かむ夕餉時冬眠開けの根菜届き
11
酸欠の金魚の如き父の口にそっと当てがう“楽飲み”の先
4
狛犬の 間をするりと くぐり抜け 日常からの 少しの旅へ
5
どうしても 見せたいなあと 思う人 居てくれるから 頑張れるのだ
4
日も伸びて ついに今年も 夏が来る 背中に羽が 生えた気がする
3
太陽がヨハン・シュトラウスを響かせて水平線から私を照らす       
4
憂鬱と黄砂に霞んだこの街を清めるが如雨は降りたり
4
ワイドショー見るとその内アカになる昔は馬鹿になると言っが
2
昼間より飲む 李白牧水ハイヤーム 旅人なども我れの酒友
5
沈痛な選挙事務所のとなりには「大願成就」の酒を売る店
5
死に触れて帰り道には腹が鳴る生きるというは腹が減ること
12
レンジをピッ卵を焼いて子を起こし 手を貸し給え千手観音
5
持てるもの全てを君にあげたくて宇宙すべての夕日を君に
8
「ラーメンが僕を求めているんです」深夜一時の口癖が行く
4
死にかけの人の匂いは赤子のように柔らかいソープの香り
3
「サヨナラ」をきちんと伝えたいからさ も一度あなたと出逢いなおしたい
3
学校のトイレで精神科に電話をかける これが青春か
5