唇を噛んで悩んで揺れながら過ごした若き日愛し秋の夕
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映画ではない日々をただ過ごしてく葡萄は葡萄の味をしながら
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散歩道朝露光る草むらの虫のむらにて杖の音止まる
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溶けだした紅茶の中で悲しみは氷砂糖のかたちをとった
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印刷を拡大しては点描画 月にも海があるのだという
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おやすみの時間ですよと通知する画面上にも月は出ている
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点眼し上向きながら髭を剃る今日から徐々に日常再開
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世界から切り離された部屋の窓にも春は来て花を咲かせる
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もうずっと使っていない声帯で真面目に唱える「袋ください」
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起こらない出来事たちを待ちわびる棺桶としての六畳一間
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なきむしの神様がいてこの雨も一粒ごとにドロップスと化す
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昼前に鈍ったままで起き出して遠くに見える雪山の白さ
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明日うまくやれる確証がないままに明日の支度はきちんと済んで
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ふわふわのパジャマくらいだこの夜に甘く包んでくれるものなど
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謝意の意を短歌うたで詠むには短すぎ 百字ありてもまだ足りぬやも
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トンボ舞い虫の声にも秋見つけ歩みを止める秋の小径に
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河原では 若者達が 集まりて 芋煮を囲こむ 秋の風物詩
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畦道に 満開に咲く 曼珠沙華 辺り一面 くれないに燃ゆる
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大ぶりの 太ったサンマが 恋しくて 探し回れど 姿が見れず
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このつらき思ひもやがて歌となり はばたいてゆくときを待ちつつ
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ハムづくりが語源とふハムストリングの張りをストレッチしつつ確かむ
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おととしは形もなくて一歳半 いま一族の主役となりぬ
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「あの花の名は何だろう」「何でしょう」、他愛ないけど二人の時間
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不自由な心を閉じ込め肉体は 息をしながら棺桶となる
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頼むから好きなら好きと言ってくれ決して僕には言えないけれど
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一列に八分音符の小鳥たち 夕空浮かぶ ファファファの五線譜
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推しバンド故に白けることがある予定調和のアンコール聞き
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同窓会 毎回同じ顔ぶれで 会いたい人に会えたことなし
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夕暮れに黒田三郎ふと思いはみ出た自分癒すひととき
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曼殊沙華去年の場所に咲いていて二週遅れは暑さの抗議
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