嬉しさや悲しみで成るコンツェルト上手く指揮棒握れぬ僕は
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幾年も天の淡いを行き交いてそれでも今年もあなたに会いたい
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近況も想いも乗らぬこの筆は尚動かざる前略草々
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ねじ回し電源を 捻じり捻って何度も押して 壊れかけ緩くなり どこに行ったとどう直そうか 一人悩んだ
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玄関に「お邪魔します」も言わないでバッタが僕を複眼で見る
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一房の紫葡萄熟れてゆく美術室横描かれただけ
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閉じた眼の中の闇より夜の闇は少し小さく少し明るい
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ニンジンの角切りやさし日々の泡言い訳ひとさじ隠したカレー
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黄狐の茄子が花屋にならんだら凩舞うよショールをまこう
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一葉の吹かれて舵は取れぬとも挫けず凜とこの夜を往く
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蜂蜜に朝陽煌めく食卓で時計に合わせ揺れるカシオペイア
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やわらかなハイビスカスが 棺桶に添えられた 君がうらやましくて
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梅雨の中雨に打たれたアスファルト「雨の匂い」と君が笑った
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真夜中のポテトチップス 炭酸抜けかけのコーラ あなたの言葉
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ドアノブを掴み損ねてわたしたちいつか静かの海にただよう
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自分ならするりと飲める錠剤を 勧めることを躊躇うのが愛
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わたくしが紙で小指を切ったため全員今日から冬ですごめん
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口元にそっと手を触れはにかんで なにかを察する消えたつぶやき
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血眼で 生命をかけて唄うから お洒落をしてる暇などないの
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ご破算にしましょう今朝の口げんか「ごめん」の代わりに今夜はシチュウ
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人のいない世界を造り出すことも人の造った言葉でできる
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マダラとかシジミと名の付く蝶々はそれでも秋の花に寄り添う
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瘡蓋の剥がれた痕の艶やかな新しい心悲しくはない
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モナ・リザの鼻頭が赤く染まるなら 僕は彼女を愛したのだが
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アクリルのキーホルダーが鉄琴の音して通学路にこぼれる晩
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木琴の音でローファー踏み鳴らす 誰かに逢いにいくのでしょうか
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指切りをした後でその指を切り落とすみたいなズルをしました
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数億のガーランドライト 光らない一つを全ての終わりというか
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新鮮な秋の空際伸びをしてあなたに流す空き瓶を洗う
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古池や彼の日の声は岩に沁み森と静まる耳に木霊す
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