早生の蜜柑の皮を破って香り満つ 今から私は生まれ変わって
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シナモンの香りをまとう赤い鳥 ぶどう畑の夕陽に消えた
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だいじょうぶ だいじょうぶよ、と 言ってやる そのためだけに 僕は歩ける
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もう僕は 歌もさえずれないけれど この羽ばたきが 風となれば、と
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溢れ出る梨のしずくを受け止めるには半袖の肘でなければ
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奥へゆくほどに濃くなる古書店の匂いに本の樹海を惑う
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みてごらんひつじがたくさんいるからと君が指さす先には白雲
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通知画面よりも明るくまたたいた心を君よ 知らないだろう
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秋暑き昨日までは「クーラー」と今日は「散歩」で汗かけぬける
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まばたきの速さで何を考えているのかわかる はるか向こうで
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炭酸水の泡に生まれ変わってはじけて消えたい秋の静けさ
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この世界でのルールでは人格は体一個に一人だという
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ピアノ線を張るのはやがて滑り失せてしまう山をき留めるため
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雨の降る日暮れ追い越し秋が来て 花は散ったか 月は満ちたか
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常温で流し込むストロングゼロストロングゼロストロングゼロ
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君の目が最近ずっと腫れている僕は気づかぬ振りを続ける
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ウィンドウを開けばここは一面のみっくみっくに土砂降りの星
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死ぬ予定しかない犬である我ら舌を垂らして都市をうろつく
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「あぁそうか、今年もあと〇ヶ月だね」だけ繰り返し終わる人生
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ふにふにと暮れてゆく秋三毛猫のきんたまみたいな銀杏ふたつ
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静けさの結界いっしゅん解くように咳払いする展示室B
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一人居の祖父の裏庭わっさりと今年も葡萄ずっといきてて
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まるい虹かかればみんなペンを置き窓に集まる子供の目をして
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ふて寝するきみの毛皮いぶされて腹をもふれば除虫菊の香
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百年後私は鷗 両翼にその悲しみを湛えて生きる
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ともだちができますように ともだちがなにかがいつかわかりますように
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シマシマのチェックスカート座布団の上でゆるゆる座り居る客
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海は嫌いプールも嫌い日差しも嫌い 夏が好きなのはサイダーのおかげ
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失った生身の影を探しつつ人格データのさまよう未来
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目薬をしてぼやけた街の灯とスマホの光はどちらが遥か
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