きときとの バスは満員 坂道を 右にひだりに ゆれて頂上 / 除幕式
12
姑を入所させたとまだ言えず窓に額をつけて月みる
22
病床で歌う「ふるさと」ゆるやかに かのやまの忘却わすれゆく人
37
淡桃のみぞれはすでに脳にあり八度八分の唇は待つ
14
幼子が小声で歌う鼻歌を 聞いてまたたく冬の星々
36
物置きの奥の奥にはスノボーがもう戻れない冬の香りす
15
父母ちちははとむかし泳いだ海街で 獲れた蜜柑を我が子に与う
35
一歳の我が子は全ての食べ物を ば・な・な、ば・な・な と呼んで笑うよ
34
晩熟を滴る麦と稲が穂のふたつわかれになりにけるかな
6
差出しの 心細さを 受け取りし 次々とどく 喪中の葉書
32
戦争にゆかさるるわれらの平和 「今そこにある危機」を忘れて
5
ぜんそくのこどもの病室あかりがみえる 明けないよるをなみだぬぐいて
15
あなたには 長生きをしてほしいから ポテチは私が食べてあげます
43
めいわくをかけてもいいという人に 肩ちからぬけ安堵のためいき
12
口ずさむ孫のミサ曲やさしくて 生きる深きを海面にえがく
15
リハビリのジムにときめく冒険は コードがともの宇宙遊泳
11
サンタにも病魔とりつきリハビリ中 さちとどけたい杖つきつつも
8
ふらふらにリズム追いかけリハビリで こころとからだおどるエアロビ
13
蟻ひとつころさぬひとのやさしさは 競う世のなか踏みつぶされて
19
朝まだきあかりの家のあちこちに 通院の闇ほのかに照らす
10
更年期という手袋をはめつつ冷え性という靴下も履く
20
ブロッコリー トマトにみかん パン うどん 一歳児にも食の歳時記
43
精神病院1983年の手記。より愛を込めて――、アール・ブリュットなどに興ずる昼を。
3
断乳に張り裂けるほど泣く吾子を 抱きしめる夜 卯の小晦日こつごもり
41
正月に夫の顔をまじまじと見て気づくなり永井荷風似
17
玄関であからさまなる孤独みて俯き知ったパンプスの傷
19
もういいと顔を覆った夜でさえフープピアスはきらきら揺れて
11
明日には他人に戻る日の夜の風呂の温度は少し熱くて
6
濁っても水面は光り水流は永遠の向こうがわまで続く
5
さよならを預け荷物に潜ませて定刻遅れの飛行機を待つ
7