山の巣に帰る鴉の声絶えて野寺の松に月出でにけり
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振り捨てし世の恋しくぞなりまさる伏見の里の鈴虫の声
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稲妻の閃光 雷神の怒号で ビビビとゆれて 静かな夜に
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神無月の フィナーレを飾る 月の夜に 輪唱響く 白鳥の声
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エリカ黄色に咲きシベリア抑留に死せる俘虜同胞を売り祖父帰る
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懸命に ひと筆書きの 星をく 十萬里ときく あなたとの距離
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橙のダチュラ砂地に吊り下がり砂に呑まるるまでを幾尺 
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ボーダーを 越えてとうとう 雪景色 それならそれで また生きるだけ
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姑を入所させたとまだ言えず窓に額をつけて月みる
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堤にて 荷車を押す 上がらない 何度勢い つけても上がらぬ
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淡桃のみぞれはすでに脳にあり八度八分の唇は待つ
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そこにいる 三尺四方さんじゃくしほうの 立方体 厄介なのは 透明だから
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弾丸のパレスチナの医の救いびと傍観のわれ思い沈みし
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母を見て泣きじゃくる子を外に出す辛き日々ある母を知らずに
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朝露にきらめくおちば陽のあたる ひと目につかす輝いており
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よるふけて下宿にかえる苦学生 おばさんの 味おにぎりのまつ
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ベッタラよ こがれてつけし老いふたり 十キロのダイコンふらつきつつも
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ガン治療逃げたきわれに立ち向かうガリガリとがるうす寒き富士
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物置きの奥の奥にはスノボーがもう戻れない冬の香りす
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トラックの東京に近付きてゆくAmazon.coがハヤカワ文庫も旧りぬ
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戦争にゆかさるるわれらの平和 「今そこにある危機」を忘れて
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一九三八年四月一日かつて国家総動員法の制定されき
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ぜんそくのこどもの病室あかりがみえる 明けないよるをなみだぬぐいて
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めいわくをかけてもいいという人に 肩ちからぬけ安堵のためいき
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口ずさむ孫のミサ曲やさしくて 生きる深きを海面にえがく
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リハビリのジムにときめく冒険は コードがともの宇宙遊泳
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サンタにも病魔とりつきリハビリ中 さちとどけたい杖つきつつも
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ふらふらにリズム追いかけリハビリで こころとからだおどるエアロビ
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蟻ひとつころさぬひとのやさしさは 競う世のなか踏みつぶされて
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朝まだきあかりの家のあちこちに 通院の闇ほのかに照らす
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