遠慮なく気兼ねなく座る優先席 敬老パスを初めて使う日
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ドアが開き目の前に見えるエレベーター 今日は乗ろうか私はシニア
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短歌うたを読み思い起こすは故郷の一家総出の田植えの五月
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眠るの耳元にそっと「さんぽだよ」ささやく夫に優しさを見る
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ビルケナウにガザの髪触れ合ひ混じり死の後も死者なりき兄妹
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木香薔薇の花言葉を純潔 死へかけがへのあるものならば
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萌黄野へ蝶たちぬわづか血をふふみおとうとの吹く Gute Nacht
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近親相姦兆す鳩小屋いもうとは髪切り散らし兵率ゐしに
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半身不随のあには車椅子へくくりぬ両脚に雛罌粟の一輪 かれき
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生活の刹那そのまま切り取って湯気が立つよな歌詠いたい
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急かされているかのように生きている まずい気がする まずい気がする
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二度咲きは小さく可憐 夏空に薄紫の藤の花咲く
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夏休み静けさの中出勤す 校庭にははや工事の足場
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音も無く陽炎かげろうゆれる濃い桃の百日紅さるすべり咲く 誰も居ぬ午後
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五輪祭 地続きで鳴る銃声よ 79年の広島忌かな
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気がつけば靴も鞄もTシャツも電車柄だね二歳のわが子
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油絵のような大雲黄金色 夏の夕暮れただ息を呑む
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「まだ読むの?」疲れた兄ちゃん逃げたいが 一歳あと追う「もういっかい!」
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波音に耳を澄ませば満ちてくる 人は何処かにみなもとを持つ
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外国語 学び初めて知る 母語の 身近にあふれる月とお日さま
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夜のびて 雨雲 空を隠すとも 月日はいつも この世 照らして
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解体の音もさみしき秋の雨誰かが住んだ家が無くなる
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海底を二万マイルも行くように静かに静かに寝ます おやすみ
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口内にニッキの飴玉放り込み転がす《20時》オフィスを占拠
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祭り済む小さき村に笛の音の聞こえた様な秋の風吹く
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分厚めの 段ボール箱に毛布敷き  冬じたくして あのミケを待つ
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病床の猫にチョッキを編んだ日は独りぼっちの今日を知らない
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悪くない風が吹いてる小春日は会えない人に会いに出かける
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ホラー映画見て寝られなくなっている自分 なんだか愛おしいよな
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冬空に明星一つ煌々と遺す光は地上を照らす /追悼 谷川俊太郎様
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