不合格 狭き門なり 火の設備士 されどならねば  我が家の危機よ
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現実の 壁がいくつも 迫りきて 夢遠くなり うた詠めぬ日々
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八十の夏を数えた ひとつめは「あの夏」でなく 地続きの夏
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白絵の具垂らしたようにかもめ飛ぶ空と海との青さ極めて
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「美味しいね」クリームよりも甘い君 今は一人で酸味がきつい
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さっきまでプーさんだった雲ちぎれ龍になって茜空とぶ
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三階のボロアパートから見る月は道行く人よりわたしに近い
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最悪が重なり合った今日だって夜の終わりはいつだって朝
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よく冷えた麦茶を口に運んだら飲んだ先から夏が熟れゆく
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抱きしめた夢をこぼして五十路なる甘き桃の香包まれ眠る
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嵐にも 距離にも負けず 君が来た そのことだけで 何もいらない
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穏やかに 笑い合える日 君もまた 忘れぬ記憶 口に出さねど
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喪失の 胸の痛みは 消えねども 想いの深さ 吾に教える
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月面を駆け抜ける雲を惑星が成長痛に光浴びせる
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おとなへる人の語らひ蝉しぐれ 盆の軒端のきはにかげはあらねど
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好きだった人から届いたお手紙で作った紙飛行機 飛ばせず悲し
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賑やかに盆行事終え静かなる朝のコーヒー香りよ届け
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雨後の径花びら散らす百日紅雲間の陽射し青き実照らす
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僕のこと見飽きた晩夏の金魚いて餌持たぬ限り近寄ってこず
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祖父細り昔の時計頂けば脈打つ如く寂しさ湧いて
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君のドア鍵がかかっているようだ三度優しくたたいてみるよ
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そよぐ風植えた覚えは無いけれど裏庭に咲く白百合の花
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夏空も そこはかとなく 秋空に うつろい行くは 秋匂うかな
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エアコンに役目奪われ風鈴はうなだれ見入る涼し朝顔
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隣家となりやのノウゼンカズラ垣を越え地を這い赤き花咲かせおり/お隣は無人
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夏好きの我も凹んだこの暑さ 冬が来ればこれまた恋し
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世界中で 戦争紛争が 収まらず 人間のエゴと 欲が渦まく
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涼し朝庭の片隅コガネグモ バッタ捕らわれ糸まかれおり
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病院の前にペチュニアうす桃の思いにゆれる秋風の朝
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休日は温泉巡り車旅亡夫きみと眺めし大夕焼けを
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