この星の裏側にある夕焼けをエンドロールと呼んで、見つめて
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雪害せつがいのラジオ聞きつつ炊事場すいじばは水のぬるみにはるおもはする
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この空の青の碧さを伝へたき人も無ければ開く口閉づ
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冬のおり 御霊みたまとらはる父母ふぼしあれば われ置きりてゆけ花の風
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転居して 磯鵯イソヒヨドリの声遠く 猫と暮らすも やや寂しくて
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幸せは案外そこに落ちていて踏んだ痛みで気づいたりする
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母遠く在りし日を知る梅の木や切られ砂利庭 残り香もなく
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くるくると渦を巻き巻き咲き誇るラナンキュラスは心の深部
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凍土から解放されし球根はいつもの通り花芽をつける
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恋う鴨の旅立つ前の水面には二羽で名残の線を弾きけり
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母親を移動する際全体重あずける時だけ男になりたい/(体力なくて⋯)
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世界から消えてなくなる夢を見た 朝の光に血脈を透く
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幼少に祖母と過ごした春の日がふと蘇るセビアの色にて
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冴えかえる桃の節句に雪舞えば言の葉凍えとこに潜りぬ
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柔軟さ失い老いの加速する義母を案ずる日々始まりぬ
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ひさかたに君の消息聞く午後は少しの道も遠廻りせん
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自分の目信じて探す好きなもの うまくなりたい短歌をもっと
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ベッドではラジオ楽しむ聴き逃しひとり静かに文芸選評
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まばゆける車窓に揺れる虹の糸 蜘蛛の啓蟄 うらやみてひる
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わがたま幾度いくど冬の背 見送れど 凍え篭もりて知らず啓蟄
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うつせみの身を追い立てし春のに彼岸のつとめ思い出し
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ありがとう あきらめかけた夢のこと 笑わないで聞いてくれてさ
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暮れなずむ空 輝ける明星に 憂ひ忘るる ほんのひととき
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九十路ここのそじ爺のこぼすや老老の介護の難きもリハビリに凪ぐ
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あたりまえ誰かと普通に喋るのも奇跡みたいだ 明日あすは晴れるね/3・11
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としつきに かさねかさねて いたみては はるけきうみに けふあめのふる
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輝きの失せた自分の灰色で迷彩してる新宿の夜
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おやすみときみの心にひつじを派遣眠れないとき助けてくれるよ
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沈黙の春に生きるは福寿草 原発暴れ荒れた庭にも
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桜木の枝に結われたノート片 眠る言葉に思い巡らす
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