朽ちはてた椿の香りたしかめて春の陽のさすいただきを去る
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しじみ蝶は枯葉に惑う栗色の翅をしてすこしも動かない
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目をつぶることを知らない太陽が木々の葉を黄色く染めていた
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その虫の翅は黒かった なにものにも(夕陽にも)染まらない色だった
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夏芝の痛みをせなに湧き上がる雲のかたちを確かめていた
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青空に乾いた音がするときにちいさく咲いたそのむらさきは
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塀の高さに薔薇たち上がりちょっとだけ背伸びをしても手は届かない
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たおやかな風にゆらいだ薔薇の色はすでにかわいているはつなつの
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バスケットゴールの網は朽ち果ててひとところ光のあたる場所
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はるかなる道はるかなる夏雲にちいさく息を吹きかけてみる
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ふわり蝶 風に飛び交う 夏の夜 けぶる香りに 大輪の花
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弊社から御社に変わるのだけれども私は御社を心底愛す
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細い毛に 汗が香りし 夏の野を 駆け回る吾子 蝶を追う
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新宿という街に想い出ばかりあり愛詰められた弁当箱だ
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「元気にねなったらランチに行きましょう」上長告げる私の涙
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退職日近く荷物を受け渡す私に弁当作ってくれた課長に
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嘘が下手 馬鹿じゃないのよ 分かるわよ そんな嘘を 信じる私
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タイヨウよ梅雨の晴れ間の快晴に街ゆく人も夏を浴びつつ
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清貧を 心にひめて 耐え忍ぶ 指をくわえても 味はしない
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夢の中 甘いあの子の 姿見え 生クリームの 朝が来る
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夏痩せた身体は風にはこばれて鳥居をくぐれば新しい街
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乾いた色をしている椿冷えきった花弁にゆびをすべらせてゆく
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しじみ蝶のからまりあって昇りゆく 太陽にかさなって見えない
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木の椅子は秋のひかりに温かく降りやまぬ葉の重さをおもう
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冬薔薇の棘の硬さに食い込んだ人差し指に血は出て来ない
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とびとびにとぶ雲を見るあきかぜのはてにはなにもない空もあり
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焦げ茶色の陸橋に汽車あらわれてあとすこしだけ此処にいる 時間
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人びとのあゆむ速さに滲みゆく銀杏並木のあおいろきいろ
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黄昏の稲穂にともる太陽は青いわたしの眼を灼くばかり
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ふざけてる替え歌みたい制服の上に乗っかるオレの顔面
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