好きなこと旅に出ること食べること今日も私は歌を詠みつつ
遠くから途切れとぎれに聞こえくる公約の声自習教室 2
この空の延長線上 梅雨と夏 争う音か空(から)のかみなり 4
梅雨明けの間近の空の片隅に銀に輝く雲を見つけた 2
あと少し君と一緒にいたいからわざわざ歩く遠回りの道(クリティカルパス) 3
夏安居や堂より鐘と僧の音(こえ)祈りは届きて解夏を迎うる 2
金曜の6時間目は上の空貴女に会いたい小さなこの孤悲(こい) 8
梅雨の午后古文の授業は教科書が海月の骨の御扇になる 8
ニュースには茶を摘む人ら新緑(グリーン)をこぼさず集め八十八夜(ファーストフラッシュ) 5
誰も居ぬ茶畑にも日燦々と降り注ぐ昼八十八夜 7
桜散る一ひら二ひら舞い上がり枝、木、道、風、僕をピンクに 9
目の前の君が見えないほどに散る桜並木を並んで歩く 8
出来るなら奪いたかった東京へ旅立つ君の学割切符を 7
来年度使う重たい教科書の知識こぼさぬよう持ち帰る 18
桜の樹枝の先から色づいていつかの君の指先みたいに 14
沓の音、身体投(う)つ音高らかに祈りは響く達陀の夜 10
白の梅かほりかすかに咲き誇る天満宮へ飛ばんとばかりに 16
うたた寝にもう会えぬ人現れて泪が軌跡を頬に図示する 24
独法師(ひとりぼっち)グレープフルーツ色の空風は飯の匂いの街角 15
ふんわりと街灯の下鉢の隅蒲公英(たんぽぽ)の花小さく立つ春 2
単語帳、ノートを見返す隣の子平和な戦士は入試へ向かう 8
二年前の僕もここへ立っていた入試の朝の三番ホームに 8
雪とけてできた大きな水たまり映る私と鳥と春風 23
簿記検定対策をする君からはカタカタカタカタ電卓の音 3
公式の海や古文の山々に彷徨いながらの期末考査 8
通学の無人の駅のベンチ脇誰かの作った雪だるま独り 8
ドスドスと屋根より落つる雪の音一歩一歩の春の足音 13
降り積もる搔きても搔きても消えぬ雪まだまだ春は遠いんだなぁ 4
暦では明日からはもう春なのに拒むがごとくJPCZ(日本海寒帯気団収束帯) 3
一方向おんなじ未来を見つめつつ大きな海苔巻き黙食をする 8
風花は一瞬樹々に華を添え儚く散るも美しきかな 7