聖なる夜そと放たるる詩にみなの吐息がとけてゆるやかに消ゆる/連作「朗読会」③
11
詠ずるに生まれ変はりし言の葉を密やかに飲む葡萄酒のごと/連作「朗読会」②
13
われわれの魂に触るる人の声その詠ずるは祈りのやうに/連作「朗読会」①
11
ただ悲し 三冠の君は 沙田シャティンにて 脚を砕きて 新緑に散る
5
かすむ目に読むこともなき本ならぶ棚ながむれば「ダンシャリ」ひびく
8
摘みたての 一輪の薔薇 リビングの ガラス瓶に生けし 香る朝
17
「お祖父ちゃん目もはずせる?」と真顔で問う入れ歯はずして洗ってた時
18
カタバミの花びら寄せて東風えがくコンクリートにうかぶ三日月
10
「バーベキューはしごとおおいがたのしい」と仕事をしない四歳が云ふ
14
祖父釣りし岩魚山女の串焼きを孫は並んで背中から食む
11
満開の鳥海山の渓谷で義父は絵になる釣り人となり
14
あかあいゆうがたをぼやけてみているめのようなすいでんのそば
5
去年の夏巣立ちに見入る燕来ず古巣に染みる囀ずりのなく
21
誰からも求められぬ 丸めた原稿用紙に積もるバターの銀紙
7
遠くから恋ひやわたらむ日常のあなたを見ることできぬ我が身は
6
思えども身を分けることできなくて心だけでもついて行きたい
8
大丈夫? 君の猫背に 耳すまし 窓に映った 君の横顔
7
帰る家ありとは聞けど春霞たちわかれなば恋しかるべし
7
肩の荷を一つ下ろしてまた乗せた三十路四十路のせわしさ懐かし
34
傍らで 編み物をするきみが居て 平凡なれど満ち足りてをり 
36
雪解けの川辺では、ヘビに食われつ赤蛙、逃げおおせし、ほっとひととき
10
あなたにも満ちる何かを知りたくて差し出すものも無くしたけれど
14
透明な心なんかはありません大体みんな何かあるので
24
お二人の関係性に触れるのはご法度ですか合法ですか
16
おやすみかおはようなのか分からない深夜3時の通知、達者で
8
あとちょっとだけ待ってれば青になるはずの信号無視する人生
10
定年後父が乗るのはゆで卵みたいなまるい剥き身の車
11
今日もまた 踏ん切りつかず 冬物の カラーを纏う 四月後半
12
軽音は顔を出さずに吹部だけ顔出すような人が顧問で
5
抱きしめてさえもらえたらきみがいた証拠となって生きられますか
4