僕だけの部屋で君の声言葉風呂場、キッチン、リビングルーム、
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テレビ消し 無音の孤独を 安らぎに 主張強めな きみの寝息で
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美味しいね 私が入れる コーヒーを 褒めるあなたの 笑顔が好きで
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あなたしか いないと思った 三年前 今は思い出だけが 残るこの部屋
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なにもないひとに与えたなにもかも 真夜中に呼ぶただひとつの名
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爪の横深紅の粒がてらてらとささくれだけで得る宝石
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大人になりたくない 君からあふれる赤黒いかたまり
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諭吉さま一葉さまもおそろいでやはり新築の財布はいいでしょ
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「桜子」と名付けられた子駆けていく娘と孫の待つ花の下
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とちおとめこぼしたきみがあかくなり団子より花君が欲しい
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煮物する茄子を洗って切る前に ねこをひと撫で「すこー」と寝息
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腫瘍になった傷みを引っ掻いた 賞味期限切れの夢
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佐保川の川路桜の思い出を書き置きたしと友言い遺し
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今日も出たスプーン投げの新記録 息子よごはん遊ばず食べて 
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麦わら帽 水着ジンベエ 三月で 夏の風吹く 西松屋かな
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春雨が 潤す蕾に 宿るのは 生命の息吹 春を告げる
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ぎこちないホケキョの囀り微笑まし春まだ浅い神社の杜で
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セピア色麻疹の記載母子手帳五十手前の息子の記録
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句を捻る 指折りながら 時戻る 足し算数える 小一の頃
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頭ではクリアになっているのにな 何が涙を生んでいるのか
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西の方 縋る思いは 人の業 白む東方 しらけるふたり
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長雨が怠いねと母とラインする ヒトも怠いが ねこも眠たげ
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なんとなく夢見のわるい日が続く 懐かしいだけの夢を見たいよ
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菜種梅雨 名前で呼べば雨粒が煌めいてくる 言葉の魔法
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緊張の 1週間が 過ぎ去って 色づき始めた 桜の木々が
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あと一歩春に躊躇し背景を塗り忘れたような景色は止まる
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雨の中 自転車乗りは 合羽着て 歯医者に銀行 膝下浸水
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音すれど人影の無い校庭に春休みらしさ感じつつ通る
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〇〇がどうなるのかと気を揉みつ桜の咲かぬ春の日の寒む
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僕と君 二つの青春が いつか また交わって 繋がる日まで
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