ひとりいるベンチに並び腰下ろし 何も語らず何もけがさず  
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こころ秘め決して言わぬ貴方の名 氷雨に濡れた胸の思い出
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ひそやかに吐息漏らして涙した 貴方を想う胸の痛みに
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知り得るは 儚き花の 散る運命 甘き恋風 こころ揺らして
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幸薄き 老婆死して 俄雨 シャイロックどもの 長き葬列に
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間違いと 正解を皆 繰り返す 重ね続けて 選ぶ天と地
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朝光り 目覚め外出て 息を吸う 美味しい空気 胸いっぱいに
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山川に渡す紅葉のしがらみは流れも秋もとどめかぬらむ
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鉢植えのコーヒーの葉に秋の陽はゆらりと照りて風は止まりぬ
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いきるいし たずねるように 葉をしごき はないけなおす にちようのあさ
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青空にラインダンスの脚の如 はさ架け大根しばし艶めく
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縄文と弥生に 続く我が国の成りた立ち探る須恵器うるはし
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サンマ焼き大根おろしのこの味覚熱々の秋をしみじみ食す
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朝霧の 先にあの日の君さがし いくら進もが 逢えるはずなく
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夜通しで魔王を斃し翌朝の眼の奥を指す日差しをにらむ
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掃除機でリセットされた世界には半日ほどのほんとがあった
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青春は「スマブラ」じゃなく「だいらん」で「エフエフ」じゃなく「ファイファン」だった
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僕はもう深海へ帰る 猫の座る落書きだらけの電車に乗って
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出せと言う入るとも言ういや言わず佇むだけで猫は見もせず
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奇跡起き もしもう一度会えた時 一番輝く私でいたい
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もう会えぬあなたの顔を思い出し やはり好きだとそっと呟く
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幾度も思い出すんだ君の事 もう触れられぬその体温を
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憂鬱を振り払うため かかとから血が出ても走るしかない僕ら
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深い夜遠くの車の走る音 年の残りを数えて眠る
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いい人に一人出逢えば十人がどうでもいい人それでも生きる
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自転車の荷台の箱が落ちそうだ。走って紐を差し出す店員
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手助けをどこでするなら報われる終わりにしたいあなたとわたし
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年齢や 性別、知識 とらわれず 短歌を詠むと 一人の歌人
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写真見て老けたよねーと声が出る 私も一緒安心したよ
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アトマイザー忘れて行った残り香は親の知らない娘の香り
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