氷山
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446

詩のことばをつかえるようになりたいです

ひとりだけ住む人の手で丁寧にただ撫でられているカーペット
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最期だけ自分の声で泣くことを許されているガラスの欠片
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素の指でひろってあげる ガラスへのとむらいとしてひとつひとつを
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こなごなになって初めて空気にふれたダブルウォールの外側のぼく
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長押しで電源を切る親指がたしかに息の根を止めていた
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幸せの形を探して三千里 ちょっとうねったシャンプーボトル
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うかうかと生きているから知らない傷が腿に走ってわたしをそし
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水飲むとずっしり重くなる胃が好きだ 人ってただの筒と思えて
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大挙して空を渡ってゆく白い夏 地平の裏で来年を待つ
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子ども舌 苦味があっておいしいと言う人みんなうそつきとする
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見ず知らずグリルのなかに並べられ炎に向けてヒレを掲げる
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先生が答えを省いたあの午後にほんのりすりむいたままの胸
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手に入らないならなんで光ったのって言いたくもなるまばゆい瞳
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幸せは天日にあてたカーペット 秋のはじめの乾いた空気
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あんたってなかなかひどい奴だよね 高天原たかまがはらを向いてむくれる
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木々の枝葉がわたくしの頭を撫でて慰めようとしていた土曜
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ひとの手でゆるく畳んで返されてなんだか照れているエコバッグ
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おみやげを見ると死ねない わたしの死後の親しき人をおもいみるから
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あなたから巾着袋をうけとったわたしが死ぬるわけにいかない
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もう帰れないじいちゃんのすがりつく手があの日没した兵に重なる
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会うために急な斜面を横切ってヤギの気持ちがする墓参り
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ももいろのフリルがついたさるすべり 木に咲く花は木の名前だけ
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文字だけで争うなかにまことがあって同じ痛みをちがうことばで
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濡れた髪からシャンプーが香りたつようになんだか大人びた杉
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こんなことばかりしている コップのふちで昨日の私と分け合うリップ
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しらさぎの代わりに戦闘機が飛んで蝉の声すら聞こえない夏
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丁寧につまみをひねる これはあの時どこへでもあふれかえっていた火
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白旗をあげたからもう今日のよき日に寝っ転がってなんにもしない
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見たくないものを笑ってごまかした月だけがバカみてえに黄色
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もう二度と戻れないよというように凍ったあとのきゅうりはやわい
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