はつ夏のひかりを帯びる日記帳 たったひとつの「五月」の文字で
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その名前呼ぶとき君はいつもより春のひかりの表情かおになるよね
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唯一の取り柄はわかりやすいことあなたはキキでわたしはブーバ
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微かなる雷鳴部屋に轟かせ水鳥を追いかける夢みる
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近づけば新たに何か見えるので何かがそこにあることにする
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寒いのは好きつなぐ指からむ脚なんぞはないが猫は布団に
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駅を出て急ぎ歩けばバス停の先頭に立つ だからなんだよ
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くるくるとダーマトグラフむくやうに帯をほどけばしろき膚みゆ
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あざやかに火花は散ってあの遠いとおい空から海がみえるよ
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まだ少し距離ある友にボンビーをつける気持ちをこの歌に乗せ
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茜さす日暮れの野火のけむり鎖さす 夕影ゆかげの頃ぞ山は哀しき
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おとこなら呑め打て遊べ派手に散れ 墓標代わりの一升瓶よ
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さぁ行こう春光が指すあの場所へ 不協和音は止んだのだから
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きみの声だけ聴いてたい不眠にも胃の不調にもよく効く薬
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若い芽を摘むな蕾も摘むな空の青さに罪はないだろうが
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この足じゃどこにも行けない行けないよ 光も影も抱く三月
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「不倫などよくある話。そうだよね、だけど許せるわけないじゃない」
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逃げ道はどこにもなくてキリキリと絞められている我の細首
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さびしくはないか、桜(二〇二一年三月 コロナ禍)よ 静寂に包まれている二回目の春
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名を呼べば咲きみだれる花のいまだ名を与えられていないつぼみ
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願わくばスピーカーより聞こえくる声に吾の名を呼ばれたき春
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壁を背に君はいだかれをひらく 「恋」と聞こえて「愛」にきたから
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便箋のひとつで終わる恋ありて春はしずかな湿りを孕む
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ならきみの体に吸い込まれてゆくうどんのようにそうなのだろう
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ゆめは旅 寂びた道路にうずくまり後ろめたさを味わうための
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愛された分だけ寿命が縮むとしか思えない猫の一生
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「月食見えなかったね」と月色の目をしたこのに語りかける
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思い出のなかでぐらいは綺麗でさあれよと地団駄踏んでは虚し
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この先へ破船はとおり過ぎてゆく波の音さえ砕くことなく
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降りてゆく蒼いとばりが日中の熱を溶かして素足に優しい
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