玄関に「お邪魔します」も言わないでバッタが僕を複眼で見る
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一房の紫葡萄熟れてゆく美術室横描かれただけ
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閉じた眼の中の闇より夜の闇は少し小さく少し明るい
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不意に指切る紙のような鋭さはどうしていつも血が出て気付く
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ニンジンの角切りやさし日々の泡言い訳ひとさじ隠したカレー
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黄狐の茄子が花屋にならんだら凩舞うよショールをまこう
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一葉の吹かれて舵は取れぬとも挫けず凜とこの夜を往く
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蜂蜜に朝陽煌めく食卓で時計に合わせ揺れるカシオペイア
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やわらかなハイビスカスが 棺桶に添えられた 君がうらやましくて
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梅雨の中雨に打たれたアスファルト「雨の匂い」と君が笑った
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真夜中のポテトチップス 炭酸抜けかけのコーラ あなたの言葉
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ドアノブを掴み損ねてわたしたちいつか静かの海にただよう
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自分ならするりと飲める錠剤を 勧めることを躊躇うのが愛
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わたくしが紙で小指を切ったため全員今日から冬ですごめん
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口元にそっと手を触れはにかんで なにかを察する消えたつぶやき
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血眼で 生命をかけて唄うから お洒落をしてる暇などないの
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知らないと思うけどずっと見ているよ 昨夜は少し歯ぎしりしてたね
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寝る前の最悪な過去と嫌な未来汚せ汚せと汚しつくして
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好きから無関心になるまでに何が起きたのか教えてよ  ねえ
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私が寝たり起きたりする間 君が何をしてるか知りたい
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この腕も脚も心も唇もあなたに触れたので捨てがたい
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脱ぎ捨てたスーツが散らばり泣きわめき汚れた食器がキィと応える
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白河の清きを汚せクソくらえ田沼の言葉でお前を語れ
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誰も来ぬ頭蓋の中の脳みそをお前の言葉にするな穢れる
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新しい歌を聞けなくなった頃コーヒーばかり飲むようになった
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うろたえる私を置いて片腕のシャルル・ペローはただ前に行く
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ご破算にしましょう今朝の口げんか「ごめん」の代わりに今夜はシチュウ
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人のいない世界を造り出すことも人の造った言葉でできる
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マダラとかシジミと名の付く蝶々はそれでも秋の花に寄り添う
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瘡蓋の剥がれた痕の艶やかな新しい心悲しくはない
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