火の用心 から風抜ける 庭先に のろしを一つ 香る秋色
1
嗚呼、夜が美味しい季節になったねと電柱は高いところで息する
3
朝焼に 染まる道路を 吹く風は あの夏の日を 遠く飛ばした
2
麦藁の 小さく大きな あの背中 一生分の 夏を見ていた
3
晩緑や いつしか蝉の声も枯れ 稲穂がそっと秋を囁く
1
蝉鳴いて香る朝風窓の外遠く聞こえるラジオ体操
1
何もかも上手くいかないその日にはあなたのもとへ逃れゆきたい
1
茜さす紫いろの鞄ゆゑ鮮やかなる夢抱へてくるる
1
虫食ひの穴から覗くセーターの別世界閉づる冬支度かな
6
雨降りて雪積もりても千歳へとひらかれてゐる白き道ゆく
2
ただ気持ち当てはめただけのつまらない歌詠みたくないこれが悪例
1
夢かしら あの日たしかに会えたのに 幻かしら きみを好きかも
3
嗚呼、夜が美味しい季節になったねとガードレールは落ち葉に語る
3
嗚呼、夜が美味しい季節になったねとガードレールは照らされて聞く
1
ぼくなどが他人ひとの心を動かせると思う傲慢思わぬ怠惰
5
メモ帳に残した昨日の激情の字数を整え脈絡をつけ
4
紙屑と間違え投げた左手の中身が何かもう思い出せない
2
あの子の手、はさみ、太陽。世界には食べられないものが意外と多い
8
はいくだよ はいくじゃないよ たんかだよ たんかのなかにはいくもあるよ
1
わが心 散るもみぢ葉にうづもれて 人知れずただ土に還らむ
5
さよならと初めましてが飽和する 腹一杯の名刺ケース
6
サンタなどいないと知って 今もなお「いい子」にしている 透明な朝
8
二ヶ月も先のことだがそれとなく 子供がいい子になっている気が
1
人知れず重い荷物を背負ってる貴方あなたよ どうか どうか幸あれ
6
大好きな歌人の退会慣れたもの ほんとは違う 麻痺する魂
1
休みの日何にもすることないけども出かけてみよう行ってきます
1
休みの日家から出ないこんな時代しょうがないかネット楽しい
1
おぼつかな歌屑いかに歌となり星屑いかに星となるらむ
6
猫時間過ぐしてゐるやこの宵も猫背となりて頁めくりぬ
3
長き夜の毛布に巻かれ読過する眠れる猫の背中に添ひて
2