神様になれなかったよ 紙束を半分にしてはにかむ涙
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ひらけごまかいわすれたけどもういいよとベッドに誘う三十六度
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脚だけで歩いてゆこう 自転車も車もいらない 空を見ながら
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夜になる 揚げ鶏になるはずだった バットのなかの淡い願望
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つまんだらつぶれちゃいそな上弦の月が私を励ましている
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わかってる オリーブオイルが辛いこと 乳化しすぎたパスタはまずい
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10分ね!」ドアへ走ると笑う君 餃子と僕のレースが始まる
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二百円シャキシャキれんこんきんぴらに影すら知らぬ曽祖母を見る
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鉛筆と紙があるなら神様で天地を開闢しているさなか
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希求した百ページすぎの紙の束 この本棚では窮屈だった
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この空がつながる場所で報われるべきひとがまだ息をしている
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在宅用酸素濃縮器 名は小春コハル やまひ持つ子の命綱 小春コハル
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なんとなく手持ち無沙汰のひとり夜に妻のみていたYouTubeみる
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もう一度同じ場所に同じ痕 つけてもらうのいつになるのか
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三日月が 道行みちゆきとうの 役目をし 友を天へと 導いてゆく
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夜の海焚火の明かりに千鳥の子 チョロチョロ寄り来て追い掛け回す
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世の中の船出の海は波高し針路定めて風に真向へ
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海釣りに期待を胸に三崎沖終日ひねもすゆられて坊主で帰宅(釣果無し)
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口先の僕に対する君の目は 氷までもが凍える様で
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正解がわからないから人生は面白いのだと勝者は言う
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夕ぐれに点けっぱなしのラジオから野球中継 不意に父の
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何十年前に生まれた僕だけど花より先に散ればよかった
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私とは消えない連続性の過去 パジャマに跳ねたトマトケチャップ
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特急の車窓に流る早苗田さなえだの水面 夕陽にきらめきて居り
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微速度で撮った動画を見るように我が庭のくさ身くねらせて伸び
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けたけど歩道爆進自転車の漕ぐひとの目は虚ろなりけり
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医院から 歩くも困憊 40分 行きのタクシー 1600円
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光射す 紫陽花の葉に 虫食いの 影が作りし レース編み模様  
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やめようと 決意したのは半年後 沼から抜けるのがいかほどに恐ろしいか
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湿る窓 見上げた雨空 縒れたシャツ 生まれ変わっても忘れないでよ
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