満員の電車を降りる時にだけできる優しさ由来の花道
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戯れ歌に黒人奴隷ありきその豚より易き一ポンドの労働契約 
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柿の木の 古木なる枝 柿ひとつ ての熟柿じゅくしは 秋風にゆれ
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うす雲に 駅裏の秋 人気ひとけなく 草の鉄路に 弱き陽落ちて
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道をゆく人の視線を一点に集める惣菜屋の行列
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風強き 秋の川波 光跳ね 水へと踊る あの夏さまよふ
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葬列の 家族の空に 百舌鳥もずは鳴く 血鎖滅び 高鳴く谺
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幸薄き 老婆死して 俄雨 シャイロックどもの 長き葬列に
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鎮魂頌朗らかひびく霜降の薮紫陽花にはなあらざればいなむか
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鞭打のそびらを固めギブスありて白き胸像四肢のあらざり
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しづかなるこどもあやめし兎の屍月光に艶かし弟切草は
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流れ去る 終電のひと 見送りて 置き去りにされし こころ畳む夜
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濡れていた 私鉄の街角 別れし日 あの夏の小雨に 声もなくわれは
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あおむしとダイコンの葉を分けあって 味噌汁の具は今日は少なめ
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橙のダチュラ砂地に吊り下がり砂に呑まるるまでを幾尺 
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青年の瞑る目蓋へ塩粒の置かる寄せかへす血潮聴きゐつ
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無花果の蔕を剥き遣り置く卓に白釉の皿清浄なりて
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やがてまた 曇り空暗く 降りかけて 秋雨の舌に 今朝も冷たく
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この朝に 降るほそき雨 濡れながら 冷気胸に吸い 生き直せしあした
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足早な 思い思いの 夕暮れの 人の列にかかる 秋雨の寂しき
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春先の冬眠明けの熊みたく不器用な人をただ許す布団
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銀杏舞い 舗道の子らは 落ち葉蹴る 襟立つ冬の背 追風のなかに
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あには羊の頭ををとうとはあにのかうべを擁きぬ 聖母子画
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岩窟の母うらわかくふたり仔の遊びに微笑まふ偽家族
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母耄碌しをさなごを呼ぶ黄昏に死をつれきたるその長じし青年
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越えていく 雲も見えざる 万葉の 風に雪崩なだれる 紅葉もみぢの峠
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一陣の 旋風つむじ舞いく 駅伝の 野菊揺らして 秋走るひと
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道端の無人の店にて「三袋で三百円」と銭箱へ入る
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『八十五歳の訪問診療医』なる鴎一郎氏は森鴎外の孫なり、励まされたり
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綺羅星きらぼしの空に耀くはずもなし。「綺羅、星の如く」と切りて読むべし
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