の机使ひて思ふ引き出しの何処に悩みを仕舞っていただろ
52
まだわたし道を聞かるる人にあり冬海岸にほのと南風はえ 立つ
44
急患の我乗せ闇裂くハンドルに娘の手あり初の高速
42
三十路みそじにて天に召されし君の子の訃報に嗚咽の涙が滲む
39
五平餅売らる茶店の灯も落ちて紅葉祭りも日暮れて終わる
39
刺し子模様 ひと針ひと針色重ね 無心の先の華やぎが良し
37
還暦を過ぎれば時間ときは滝のごと流れ落ち行く悩む間もなく
37
ほほ笑みは 生後三日の が語る キユッ とあがった ピカピカの頬
37
冬を耐え花を咲かせよ林檎たち陸奥に明るい春を呼ぶため
36
新聞の暮らしの作文音読す五回つかへし自分の声聞く
36
歯科に停められた車は全て白 差し歯するごと吾も駐車す
35
北風の冬の朝には日が澄んで歌の言葉をほどいてくれる
35
前歯ない姪が「ひみつ」と金平糖くれてゆっくり溶ける手のひら
41
三十年ここで寝たんだ このベッド あるじ無き部屋 淋しさつのる \ ようやく独立!
34
母伏して 徹夜付き添い 入院し 『帰りたい』との 母を説き伏せ
34
滝の音聞こへ来そふな油絵の水霧飛び来て吾にかかるごと
34
冬の夜救急に立つ半袖の温きナースのみ手にゆだねる
34
積む雪のはじめは六花ひとひらのあまねく広く銀世界見ゆ
33
財布から証明写真こぼれ落ちあの頃の僕と不意に目が合う
33
死ぬ人は不幸ではない無になって解放されて忘れ去られて
33
闇を抜けたどり着きしや病院の灯りのすくう砂金のいのち / おかげさま、落ち着きました
33
老いて目も うとくなる日々 縫い物はせぬが料理はまだまだいける
33
解けて降りツルツル路面の出来上がりそっとすり足 雪降りつづく
32
黄金の花梨をぎし指先に可憐な花の面影を追ふ
32
地獄へと続く道のり振り向けばあなたのくれた優しさの花
32
無為むいのまま 降りつづく雪 こうなれば 有為ういであろうか 飛ばない飛行機
32
夏からは病に伏すという君の住む街は雪 今日も明日も
32
すり林檎食べた数だけ成長し食べたくなった三十八度
31
つまの間にとっぷりわが猫の浸かると足りなくなる掛け布団
31
律儀なり 気配かぎつけお出迎え 一人と三匹それも良きかな
31