傷ついた昨日を脱いであたらしく強くなれるか蛇だったなら
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次はないくせに「またね」を二度も言うあなたの爪に咲く曼珠沙華
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暮れかかりひとけがなくなる教室の僕の席には僕すらいない
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昼の熱残る二階へあがり来てポケットの中ひやと文庫あり
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ヒントを求むるは愚行と見做す愚行をばたださんと読む文庫
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初めてとばかり言うから嘘つきと思われている知らない私
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懇願に堕ちたい凡俗をふたり外猫みたく心に飼って
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名付けずにいる限り名を探す道行が続けられる 明日死ぬ
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あの痛みは幻と知らされたからあなたのためにまた痛む
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一度投げ捨てた眼鏡を後ろ手に探る肩口 絵描きの男
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きみんちのシンクと同じ冷たさに凭れ深夜のくわえたばこ
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詫びること全部嬉しく思ってる 私あなたをかき乱してる
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いつかは死ぬふたりだから楽しみの数のカウントダウンはじめた
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並び掛け雲丹とろかした夜明けて向かい合っては啜れぬラーメン
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言わずには居られぬと顰めた眉で待つひとの元へ夜の列車
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互いの温めかただけ知らなかった 許し方はこれまで通り
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ペット不可の部屋でこっそり『音』を飼う 「おはよう」『しゃらり』「おやすみ」『ぱたん』
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一斉に鳴きだす木々と憩いつつ傾ける缶君への手向け
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空の青 心に溶かして 落ち着いた 地球に生まれ よかったと思う
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あの夏に後部座席で見た夢のつづきを今も追いかけている
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ごらんあれ短歌のために作られたピンどめされたいびつな言葉
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さようなら、鳥が飛び交う地平線。ぼくらは街に向かって歩いた。
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『地上波で流しちゃダメな愛なので』常識的な愛だけがある
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「スプーンで食べる豆腐」に匙つかず 二十七時は猶も終わらず
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三更にすすき分け入りけもの道辿りて征かば相成ろうとも
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指先にベタベタ残っているような溶けたアイスと昨日の思い出
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あの人の名前に「山」が入ってる それだけの理由ワケで今日はごちそう
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あたたかな手でふれないで この罪と炎の輪郭に気づかないで
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汚辱ごと燃え尽きたりしわがあとにフォーマルハウトの冴えたあかるさ
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かぶとむしたくさん飼ってかぶとむしたくさん死なす夏繰り返す
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