冬に添う最後の夜だ 雪色のままに散り落つ牡丹を看取る
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望んではいけない恋だ 師走の夜 月下桜の狂い咲く程
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ゆるゆるとわたしをほどくバスクリン 湯舟はきみと同じ温度だ
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ハンガーのかわりの向いの椅子の背に君のかわりに座るパーカー
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生垣の制服のみたいな白のなかぼくら二輪の赤い山茶花
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狂い咲く琉球朝顔手をのばし神無き鳥居に夕闇穿つ
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実を開き赤裸々みだらなあけびの香 赤い口紅塗りたしてから
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サバトラの子猫寝転ぶ屋根の上 鰯の雲の海に抱かれて
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カンジョウガナイガウタッテイイデスカハイワカリマシタウタイマセン
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えいえんを上書き保存してしまう ちゃんと♡をつけたのだけど
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くだかれて枕に入りきったのがエリートそばがらとだれが言った?
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歌のなか「君」が君ではなくなってこの現象を〈君暮れ〉と名付く
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「感情をふつうになさい」「感情のないまちだから関係ないさ」
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倒れこむ速度に学ぶ日常の重力操作技術の巧み
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かたい背の闇脱がされたダンゴムシ ちょっとおどろきまた闇を着る
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あたしの手よくみてちょうど嵌められるようになってるその手のマグを
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クリスマス 誰かの笑顔のためだけに 火にくべられる チキンになりたい
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くろぐろと長き尾 老猫あの夏に喰ったあげはの飛び立つまでは
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散り落ちた金木犀に沈みゆく街に波より軽やかに花
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衰えを知らぬ紫紺の朝顔は我が十月の静脈に咲く
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鰯雲 鱗に混じった一枚のねぼけた白い月を指さす
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鈍痛の汚泥は枕のかたちして窒息するほど嵐のにおい
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香に酔う雨がしとりと手を伸ばし金木犀を孕み落日
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幸福の色は白色 くつくつと笑いころげる新米の湯気
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悪いことしてるみたいに盗み見る横顔いつか宝石になる
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僕らには酸素が足りない 水槽のシーツに沈み何度も喘ぐ
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放課後にくるくる踊る影長く かえるおうちのない子供らの
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彼岸花 すがる葉もなく一筋に仰いだ天に火花の如く
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あけすけに老いさらばえた白百合に清きくちづけおとす朝露
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オレンジのお日さまみたいなコスモスがやがて抱かれる未知の冬の死
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