風森
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投稿数
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君の住む町も暑いか風よ吹け 君がやさしく眠れるように
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星ひとつ君の睫毛に留まりおり 瞬きにより流れて落ちて
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行き先の定まらぬ旅 名も知らぬ町を過去にし進みゆく汽車
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この星の裏側にある夕焼けをエンドロールと呼んで、見つめて
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「やっぱりさ、ハンバーグだね」ファミレスで笑う彼女に薔薇をあげたい
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二十二時 食傷気味の脂身と甘味と恋をシンクで吐いた
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「ほんとうに会いたい人には簡単に会えないものよ」また年をとる
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出力の機械にすぎぬ指先を ふいに綺麗と君が言うから
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あの夜と同じ温度と気付く時あなたも私を想うだろうか
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露濡れた綿毛の子らはじっくりと舞うときを待つ 一歩ずつ行く
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過去未来 常世現世 境界をぼかしてゆくは盆の陽炎
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夏の雨には体温があったから思わず傘を閉じてしまった
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夕立にやわらかく濡れた右肩が ある夏の日を特別にする
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遠い君の声に呼ばれた夕暮れにようやく泣いているのだと知る
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眩しさを湿った土の下で待つ蛹のように夏に焦がれる
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幼き日ポケットに詰めたやさしさが転けたはずみでこぼれ落ちゆく
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願えどもねじれの位置で交わらぬ手と手にひとしく降りそそぐ朝
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どこが好きか分からないのに好きということにしている ビールも人も
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君が旅立つ方角に日が沈む 燃える夕焼け餞のごと
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好物のきんぴら蓮根用意する 形見の包丁 祖父の命日
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「他人のもの盗ってはだめ」にうなずいて今日もつまらぬ私が生きる
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斜めったサボテンとふたりこの部屋で共に生き延びようと誓った
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「忘れ去るよりも憎んで」なんて言う強がりな君 叶えてあげない
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夢破れ地に這ってなお咲き誇れ君は私のダンデライオン
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足元に見向きもしないひとだった 窓辺のすみれ誰が挿したの
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大通りのソメイヨシノが散ったのち脇道にそっと咲くヤマザクラ
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きみがくれた本の背表紙つとなぞる哲学だって解るふりした
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「良いですね、可愛いと楽で」膝の上の猫に拗ねてる君が愛しい
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春告げる役目を終えて桜雨かろやかに舞って春風にとける
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馬鹿話したあの夜も過去にして明日から大人のフリするんだろ
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