Utakata
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風森
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二十二時 食傷気味の脂身と甘味と恋をシンクで吐いた
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「ほんとうに会いたい人には簡単に会えないものよ」また年をとる
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出力の機械にすぎぬ指先を ふいに綺麗と君が言うから
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あの夜と同じ温度と気付く時あなたも私を想うだろうか
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露濡れた綿毛の子らはじっくりと舞うときを待つ 一歩ずつ行く
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過去未来 常世現世 境界をぼかしてゆくは盆の陽炎
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夏の雨には体温があったから思わず傘を閉じてしまった
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夕立にやわらかく濡れた右肩が ある夏の日を特別にする
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遠い君の声に呼ばれた夕暮れにようやく泣いているのだと知る
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眩しさを湿った土の下で待つ蛹のように夏に焦がれる
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幼き日ポケットに詰めたやさしさが転けたはずみでこぼれ落ちゆく
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願えどもねじれの位置で交わらぬ手と手にひとしく降りそそぐ朝
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どこが好きか分からないのに好きということにしている ビールも人も
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君が旅立つ方角に日が沈む 燃える夕焼け餞のごと
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好物のきんぴら蓮根用意する 形見の包丁 祖父の命日
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「他人のもの盗ってはだめ」にうなずいて今日もつまらぬ私が生きる
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斜めったサボテンとふたりこの部屋で共に生き延びようと誓った
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「忘れ去るよりも憎んで」なんて言う強がりな君 叶えてあげない
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夢破れ地に這ってなお咲き誇れ君は私のダンデライオン
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足元に見向きもしないひとだった 窓辺のすみれ誰が挿したの
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大通りのソメイヨシノが散ったのち脇道にそっと咲くヤマザクラ
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きみがくれた本の背表紙つとなぞる哲学だって解るふりした
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「良いですね、可愛いと楽で」膝の上の猫に拗ねてる君が愛しい
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春告げる役目を終えて桜雨かろやかに舞って春風にとける
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馬鹿話したあの夜も過去にして明日から大人のフリするんだろ
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ありがとう早めに失恋できました春一番のような恋でした
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Twitterに流れるかわいい君の推し 少し睨んでリンクを送る
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桜散る花びらひとつ掴めない不器用な君を憶えていたい
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未練だろ 君のスマホのロック画面 あの子が描いた下手な犬の絵
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鳥になり世界の春を俯瞰して 誰かの流す涙愛した
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