秋の陽はきめやかに差し楠の影に隠れてゆく人の影
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夏の音に耳をすませば蝉ばかり鳴く声に蝉の声が加わる
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とことこと身体の軸をみださずに扉のしたへきえてゆく ねこ
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山吹の花びらのゆらめいていて風は風としてそれはそれとして
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古ぼけた赤屋根に紙垂はためいて黒猫はまだこちらを見てる
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色褪せた花びらがなお紫陽花の花のかたちを彩っていた
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五月雨にささやかな影落としつつあなたとあなたの話がしたい
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青条揚羽アオスジアゲハの青あざやかに閃いてあたらしい夏のおとずれを知る
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しじみ蝶は絡みあい離れあいながら草々のさきにふれてはなれて
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揚羽蝶の翅おだやかに振動し何かが始まろうとしている
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新緑の深まるときに蝶はたかくどこまでたかく飛べるのだろう
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芥子の花ひとすじ伸びて吹きわたる風つよければ折れそうなほど
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くすのきの葉がつぎつぎと落ちてきて枯れつくすほどのことではなくて
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傾いた太陽の色に山吹の花々のかさなってゆくころ
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かなへびの舌ちろちろと春の陽にややあたたかい敷石をゆく
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綿毛の塔に風やわらかく吹き込んで崩れ去るにはまだ早いから
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木々の葉の影こまやかに映し込み疎水に春の声が聞こえる
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ひとところ光さしこみくすのきの葉がゆっくりと落ちてくる迄
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落椿おちつばき雨にくだけてのこされた椿とともに紅々と咲く
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桜花ふりしきる道にのこされたあたらしい葉の色を見ている
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朽ちはてた椿の香りたしかめて春の陽のさすいただきを去る
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しじみ蝶は枯葉に惑う栗色の翅をしてすこしも動かない
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目をつぶることを知らない太陽が木々の葉を黄色く染めていた
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その虫の翅は黒かった なにものにも(夕陽にも)染まらない色だった
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夏芝の痛みをせなに湧き上がる雲のかたちを確かめていた
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青空に乾いた音がするときにちいさく咲いたそのむらさきは
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塀の高さに薔薇たち上がりちょっとだけ背伸びをしても手は届かない
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たおやかな風にゆらいだ薔薇の色はすでにかわいているはつなつの
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バスケットゴールの網は朽ち果ててひとところ光のあたる場所
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はるかなる道はるかなる夏雲にちいさく息を吹きかけてみる
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