月夜ぼたん
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ただ歌を詠むことが好きなおばあちゃんです。よろしくお願いします。

「帰りたい」電話の母は幼子の  泣く直前のような声にて
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退院の決定届くLINEにて 夫の文字に見つけた高揚
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一日を全部自分のためだけに 使える自由の我に吹く風
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海に行き貝殻ひとつ拾いたい 海の重さを秘めた貝殻
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午前六時 山あい響く「夏はきぬ」 市の広報の「今日もがんばれ」
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存在の重さ教えた入院の 夫のLINEの丁寧な語尾
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この星に 今流れてる涙あり 集めてみれば 川出きるほど
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早朝の涼やかな風 贈りたし 本物の涼 箱詰めにして
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花の巴里オリンピックは開会す  我の生まれし国思ふ日々
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病院へ二時間の道進みつつ 夫と出会った日の鮮やかに
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贅沢はモーニングつきアイスティ レモンは琥珀の中に沈めり
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ベッドにて術後の夫の横顔に 知らないグレーの老いを見つける
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起きなきゃと背伸びして思ふ 二分前に買った本のこと
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入院の夫を見舞う準備する 笑顔が浮かぶ履き慣れし靴
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ブラウンの抱き枕には百七歳の 伯母の涙が染み込んでいる
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転倒の百七の伯母無傷なり 大正生まれの見事ないなせ 
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電車行く緑の川を泳ぐよに 流れのはてに夫待つ病院
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夕方にこの病院に行くことを 思ってもない朝が懐かし
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手術する夫はすでに病院へ 追いかけティッシュ一箱持って
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突然の救急搬送告げられて ヘリか車かも迫られている
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気がつけば反対側に人多し こちら側には吾一人の電車
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次の駅天気はなあに?くるくると 猫の目のよに電車の外は
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電車にて少女の声の「トンネル!」と 三秒後入る黒の世界に
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雷雨にて電車に乗れば青空に 我を連れ行く気ままな天気
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病院で夫の検査の結果聞く いつになく横顔かおおだやかな彼
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灯台のような言葉のひとつあり 我に与えし忘れ得ぬ人
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夏に耐えこぼれるばかりの花々と 虫集う庭を風吹き抜けぬ
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風ありて壊れてしまうシャボン玉 一つくらいは雲まで届け
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宿題を手に手に集まる子供たち 家より出きる寺子屋ならば
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水筒の麦茶ごくりと喉通り 体の熱をすこし待ってく
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