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松本直哉
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木の間よりもりくる月のかげ白くいまさかりなり茉莉花のはな
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なにもかも絵空ごとぞとおもふとき天にははなび地にはくちなし
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海のいろあをかりしかばびんづめの手紙ながしぬあてさきもなく
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オーボエダモーレふいにかなしき夕なぎの松帆の浦にうしほ満ちくる
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求愛の姿態そのまま凍らせて
永久
(
とは
)
にもだせりギリシヤの壺は
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ひそやかにリュート鳴りいづものなべて薄明となるいのちのはてに
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密会の公園昏き春にして風のまにまにきこゆるチャイム
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ただ光のみ糧として生きてみたい青い葉をもつ草木のやうに
1
声のなき歌きこゆなり白き花黄の花咲いてしづもれる庭
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降るとしもなくふるはるのあめのおとききつつうたへミゼレレノビス
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かなしみとうれひのちがひ説く君のうつむきがちの白き横顔
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白き蝶とびかふゆふべ摘みゆかむ金のりんごと銀のりんごと
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こころをばなににたとへむひぐらしの声ふるさとの夕暮れの空
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われてもすゑにあふこともなきへだたりの波間をこゆる一羽のかもめ
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足のつかなくなるところまでおよいだらみえるでせうか白い夏の帆
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はかなくもなきいでにけりひとすぢのせみの声する梅雨のあとさき
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あぢさゐの花にこころをたとへまし憂しと見し世のうすむらさきの
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顔のしたなべてどくろとおもふときほのかに白きどくだみの花
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第四コーナーからだかしげて曲がる子のひかがみ白く夏さりにけり
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ほととぎすなくやさつきのしののめの降るとしもなくふる雨の音
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泣くことをひさしくわすれゐたりけり夏のあざみのあをく咲くあさ
1
はつなつの木蔭にすずむかりそめのこの世はなべて異郷と思ひき
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うながされ子らはかへりぬ揺れとまるふらここひとつのこる夕ぐれ
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手のひらのうへにのせたるしろたへの豆腐すずしき夏は来たりぬ
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夢の世にすめばなつかし夏木立こずゑの鳥のさへづりの声
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巣ごもりの子らにあけくれ
飯
(
いひ
)
かしぐさみしきわざをわれはするかな
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願はくは花のなかにて酔ひ死なむみつばちほどのひとにうまれて
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穢土なれどうつくしきかな風わたるあをばわかばのけやきの並木
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あたらしき制服の子に風かをるひと月おくれ入学のあさ
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あぢさゐの花さきそめて梅雨ちかくわが身世にふる雨だれの音
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