松本直哉
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近寄れば塀の上より飛び降りて悠々として歩み去る猫
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聖堂に「憐れみたまへ」の声満てり愚かの神に祈るべけんや
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軽やかな筏に乗りて漕ぎいでな夏の一大紺円盤へ
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マルクスのヘーゲル批判読みあきて空見上ぐればひとすぢのくも
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かきくらし地軸は揺れて幕裂けつなにゆゑわれを見捨てたまひし
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爽やかな風吹きわたる緑蔭に弔問の列とぎれざりけり
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たらちねの母の裳裾に隠れしが片目覗かせ笑ふをさなご
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なすの紺ししたうの青かぼちやの黄いろとりどりの夏揚げにけり
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さかさまに吊るして春を惜しみけり花のにほひはうつろひやすく
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邂逅はいかなる火花散りにけむ老いたるゲーテと若きベトヴェン
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うしろから目隠しされてふりむけば春の日暮れの荻窪駅前
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削除また削除のすゑにあらはるるりんごの芯のごときたましひ
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おととしの柱の傷ものこりけり姉と妹と測りあひし日
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一羽鳴き二羽が倣ひて三羽和す 夜明けを告ぐる鳥たちのうた
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ひらかたのさくらひとひらひらひらと春たけなはとなりにけるかも
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トンネルを抜ければ流竄 われこそは新島守とつぶやいてみる
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貿易商グラバー邸よりながむれば波しづかなる長崎の海
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身まかりし数日前に途絶えたるインスタグラム見つつ偲びぬ
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不発弾遠巻きにして人絶えし昼のしづもり鳥なきわたる
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時は春時間は正午玲瓏とカリヨンの鳴る市役所広場
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後ろ手にブラの留め金はづしけり月かげしるくてらす横顔
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子どもらに朝な夕なに飯かしぐさみしきわざをわれはするかな
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かき混ぜて流しこむときじゆわわわとかなしき音を立ててかたまる
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禿げかたの美しいひとにあこがれる たとへばゲオルク・ショルティのやうな
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ぬばたまのロザリオたぐる毎日のいのりこそわがささげものなれ
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花びらに十重とへ二十重はたへにつつまれて薔薇のしとねのなかのまどろみ
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雨あがり葉末に銀のしづくして野辺のみどりぞ色まさりける
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紅葉賀もみぢのが」ひもとく夕べ篳篥と笙のしらべにみつる行間
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「眠りとは小さき死」とふことわざを思ひ出でつつ眠りに就く夜
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手になじむ俳句歳時記胸もとに棺のふたはとぢられにけり
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