松本直哉
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十年後ジャスミンティーの再会は苗字かはりて人の子の母
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祈るやうに手をあはせたりめづらしき蝶見つけしと馳せきたりけり
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わたつみの底の浄土の住みごこちいかにと問ひぬあをうみがめに
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乳と蜜ながるるところといはれたるカナンの地いま血潮ながるる
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春高楼の花のうたげはまぼろしか廃墟の城を照らす月かげ
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制限字数こえてあふるるわが思ひたぎつ早瀬となりにけるかも
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ふらんすはあまりに遠し「赤と黒」原書にはがすユーロの値札
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ひそやかにゐなくなりたし没年齢しられぬままに墓標もなしに
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おたがひの足音のみを聞いてをり話の接ぎ穂見つからぬまま
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ひとり舞ふほかにすべなしもろびとの大縄跳びの埒外なれば
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「きらひなのさういふところ」といはれたり不貞寝して聞く遺愛寺の鐘
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おぼろなる記憶の底にきこゆなり赤子のわれを呼ぶ祖母のこゑ
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かろやかに走り抜けたり太陽のコロナのやうに髪なびかせて
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「結んでよ後ろの紐を」あらはなる背中見せつつ言ひたまひける
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生ましめしのちのよふけのしづもりに老助産師のたばこくゆらす
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陣痛に耐ふるつまの手にぎりをり痛みを分かつすべあらなくに
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とり入れををへし田畑に雀らのさわぐを聞けば秋更けにけり
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経糸たていと緯糸よこいともなき鳥たちの声の織りもの聞けども飽かぬ
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ひるよるのけぢめもつかぬ薄明かりいのちの果てのけしきとぞ見る
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つり革にとどく背丈となりし子の腋窩の白く夏さりにけり
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泣きぼくろつついておこすとなりの子金曜五限睡魔のきはみ
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言霊の幸ふ国に聞き飽きる 美辞も麗句も誹謗も揶揄も
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二日めのおでんのやうにしみてくるやさしく気づかふあなたのことば
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いかにせんうかがひしれぬものありて人のこころは月の裏側
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ひかり曳くものこそなべてかなしけれ流るる星もほたるのむれも
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イヤフォンをシェアしてバッハ聴きをりぬ予定日すぎて子を待ちながら
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腰骨の上に手をおき抱きよせる サルサのリズム 波うつ体
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抱きあげて高いたかいをするたびにはじけるやうにわらひたりけり
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あさぼらけ比叡のやまにたつ霧のふかくぞひとを思ひそめてし
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あひ見てののちのおもひはすみれいろ日の出のまへのひさかたの空
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