松本直哉
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せがまれて病む子に本をよみきかせよみをへぬ間にねむりにおちし
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熱のあるときは二重のまぶたなる子をかなしみて氷をあてつ
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やははだの熱く病む子にふれもみで医師の見入るは液晶画面
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頬あかくそめて無口になれる子のからだ寄せきぬ診察待つ間
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おとなへど休診の札かかりをり熱のある子の手をひきかへる
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あづけたる園の電話にはせゆけば小さき額に熱さまし貼る
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わがうたにいまだ紋章なきことも恥ぢずこよひも豆腐が旨い
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ブレーキのきかぬくるまかすこしづつあなたの方にかたむくこころ
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別れきて秋の夜長をなきとほす虫の息にもなりにけるかな
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管弦のとよもすホール脱けだせばしんとしづもる明きフォアイエ
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「好きといふきもちは抑へられなくて」読みかへす午後ひざしうつろに
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置きわすれられしニットのセーターに顔うづむればにほひなつかし
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十年後ジャスミンティーの再会は苗字かはりて人の子の母
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祈るやうに手をあはせたりめづらしき蝶見つけしと馳せきたりけり
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わたつみの底の浄土の住みごこちいかにと問ひぬあをうみがめに
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乳と蜜ながるるところといはれたるカナンの地いま血潮ながるる
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春高楼の花のうたげはまぼろしか廃墟の城を照らす月かげ
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制限字数こえてあふるるわが思ひたぎつ早瀬となりにけるかも
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ふらんすはあまりに遠し「赤と黒」原書にはがすユーロの値札
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ひそやかにゐなくなりたし没年齢しられぬままに墓標もなしに
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おたがひの足音のみを聞いてをり話の接ぎ穂見つからぬまま
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ひとり舞ふほかにすべなしもろびとの大縄跳びの埒外なれば
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「きらひなのさういふところ」といはれたり不貞寝して聞く遺愛寺の鐘
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おぼろなる記憶の底にきこゆなり赤子のわれを呼ぶ祖母のこゑ
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かろやかに走り抜けたり太陽のコロナのやうに髪なびかせて
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「結んでよ後ろの紐を」あらはなる背中見せつつ言ひたまひける
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生ましめしのちのよふけのしづもりに老助産師のたばこくゆらす
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陣痛に耐ふるつまの手にぎりをり痛みを分かつすべあらなくに
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とり入れををへし田畑に雀らのさわぐを聞けば秋更けにけり
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経糸たていと緯糸よこいともなき鳥たちの声の織りもの聞けども飽かぬ
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