松本直哉    フォロー 4 フォロワー 3 投稿数 142

ほのかにも吹く風にこそかをりけれ暮れゆく春の茉莉花のはな 

鳥ならば飛び立ちなまし世のなかのはなしの接ぎ穂見いだしかねて 

うつくしきことしか言はぬ人びとに倦みたる果ての若楓かな 

聖堂の床はがれきにおほはれて聖金曜日のいばらのかむり 

遁世のこころざしふときざすとき春たけなはに花も葉桜 

あいさつのかはりなのかなうしろから目かくしされる待ち合はせの駅 

かたこりの妹のかたもむ受難節つばさのありしところさがして 

戸のすきま白馬のよぎるつかのまのゆめまぼろしの世をわたりゆく 

いちはつの散らまくをしみ手折れどもいのちはかなくしをれたりける 

ほのぼのと明石の浦の怨みてもまだあまりあるわがなげきかな 

はしきやしめぐしと日ごろ撫でし子の花より団子の食べざかりかな 

世間体といふ縁なきことばあり花散る里の抒情組曲 

雲となり雨となりても逢ふことのかなはぬ恋と悟りぬるかな 

約束は藍色なりきさゆりばの知られぬ恋ぞ淵となりぬる 

子をやどすひとの象形と知りしより身といふ文字をつつしみてかく 

まつたくのまの字略して発音するやうな人にはなりたくもなく 

あさまだきまだあたたかき麺麭を買ふカルチエラタンのしきいしのうへ 

世のなべてうつろふものはかりそめの比喩にすぎぬとゲーテはいへり 

豊頰をほのかにそめてをとめらのいでたつ野辺にみどりもえいづ 

時じくの雪ぞふりけるこまとめて袖うちはらふはるのゆふぐれ 

重力にさからつて跳ぶ日々あつく陸上男子の夏のたけなは 

日に一度ひづめもかるくかけりくる郵便馬車を待ちがてにして 

湯あがりを寝入りしひとのぬばたまの髪かきやればかはききらずも 

あすの米あらふくりやの小夜ふけてさくらをちらす雨ふりやまず 

日一日日暮れのおそくなる庭の茉莉花の芽のあかくいろづく 

身の丈の五十センチのみどりごもいつしかわれに肩ならべける 

園児らの「如来大悲の恩徳は」こゑをさなくもうたひけるかな 

清明のやさしき雨につつまれてさくらさく村はるかにけぶる 

恋衣おもひおもひに染めなしてさくらの下の愉しきうたげ 

花便りとどきにけりなたれこめて春のゆくへも知らぬわが身に