松本直哉    フォロー 9 フォロワー 9 投稿数 335

日かげればかげのいろ濃くなりぬめりせみのこゑいまだおとろへざれど 

透明度うせつつ赤みおびてゆくえびのすがたをぢつとみてゐた 

水うてば土のにほひのたちのぼる庭にたたずむなつのたそがれ 

まさをなる空よりせみのしぐれ降る夏たけなはとなりにけるかな 

小児科と内科のあはひかるく病む吾子とあゆめば片陰の濃き  

夏のやま飛行機墜ちて飛行機のかたちにもえて夏のやま哭く 

しばしとてたちどまりつる夏木立英霊といふことばがきらひ 

添へられしやさしき祖父の手の記憶はじめて鋸をもつをさなごに 

思ひ川わたりもあへぬ深き淵なつのをはりのあさがほの紺 

をみなごにうまれましかばそでぐちにレースの服を着なましものを 

ぱんぱんと皺をのばして吾妹子のころもをほせばしろき夏の日 

非常勤いな無常勤とやいふべけむさだめなき世のわがなりはひを 

御巣鷹に逝きし友の忌ちかづけばおもかげいまだ若かりしまま 

たましひの飢ゑかわくゆゑぬばたまのクロイツェルソナタくりかへし聴く 

アンダンテ・ソステヌートできかせてよこの世をのがれるための呪文を  

たのまずよ夏のなぎさの砂に書く人のこころの波に消ぬべく 

いもを煮てくるるをとこを婿とせよかみながき子よなつのをとめよ 

なつかしきなつのひぐれのマドリガルをどるをとめのくるぶししろく 

パラプリュイくちずさむまち雨ふればいろとりどりに花ひらく傘  

すずしげにすずをふりつつのんしゃらんのんしゃらんとぞすぎゆきにける 

雨の庭線香焚いて手をあはす金魚一匹うづめしのちに 

まつすぐのきうりだけしかみとめないせまいこころになりたくなくて 

おしてるやなにはのくにもみどり濃きテルミドールとなりにけるかな 

夏の日を歌ひくらして飽かざらむ日暮れていまだせみなきやまず 

わがこころ鳥にあらねばうつせみのこのよをさけてたつ空ぞなき  

夏 日暮れ くちなしのはな 遠花火 わがなつかしき形而下のもの 

知らざりき目もとすずしきをみなごの庭を一期のゆめと果てしを 

鎌倉や阿弥陀如来のながあめにもだしおはすやしとどぬれつつ 

さみだれにつねよりまさる思ひ河身を浮きくさのながれながれて 

みみたぶのやはらかく練るしらたまの知られぬ恋にぬるるそでかな