Utakata
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松本直哉
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愚かなる神の御業か なきがらのみつからぬまま幾世経ぬらむ
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一時預かり荷物係にたましひをあづけていまはからだかろやか
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較ぶれば夢まぼろしのごときかな憂しと見し世を遠くはなれて
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炊きたてのごはんは熱くおにぎりをにぎりをはれば火照る手のひら
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右ひだり異なる深さ 不確かな足あとつけて森へ消えゆく
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ある程度煮立つてくればさし水でしづめてしがなたぎる思ひを
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肩越しにふりむけば青 耳もとに真珠の耳飾りひからせて
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糺の森の古本市にあがなひぬ『レイン・ツリーを聴く女たち』
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みみづくも濡れそぼつらむひさかたの雨音しげく聞こゆる寝覚め
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引き潮やあらはれいづる磯浜に春日を浴びて蟹とたはむる
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マッチ擦るつかのまみゆるまなざしの純粋にしてまさをなるうみ
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反帝の立て看板を担架とせむ無援のひとを送る葬列
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えらぶなら姓はガルシア名はペドロ鳥など飼うて世を過ぐしてむ
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頬紅をさせば息あるごとく見ゆひそやかに鳴れラヴェルのパヴァーヌ
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くるくるとダーマトグラフむくやうに帯をほどけばしろき膚みゆ
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さらさらと帯解くひとのおもかげのよみがへりくるひとり寝の夜
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くちづけと愛撫のあはひやすらへば谷町筋は群青の闇
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圧しころす嗚咽かすかに隣室の五月の花と言へクレマチス
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炒るほどに香りたちたり海の色まなこにのこるかたくちいわし
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禍ときづかぬままにあそびけり世界がうみにおほはるるまで
2
とどこほる雨雲の帯ながながとわがこころにもなみだふりつつ
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あぜ道のみぎもひだりも蛙のこゑ田植ゑ終はれば梅雨ちかづきぬ
1
旋盤工募集のポスター色あせて雨のにほひの京浜蒲田
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あすはただわかれゆく身ぞ笹まくらかりねのやどの明かりを消しぬ
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たれもかれも討ち死にしたりはつなつの六時間目の古典文法
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かぜふけばななめになびくけむりみゆはかなきものはいのちなりけり
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手をつなぎかちにてわたる思ひ河しのぶ逢瀬のみづのつめたき
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バー越ゆるせつなのせなかしなやかに反りつつとぶや陸上の夏
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ひとり活きひとり死ぬこそいのちなれほのかに苦き
独活
(
うど
)
のきんぴら
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空のはて恒星ひとつほろぶときかすかにゆるるつるばらの茎
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