Utakata
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松本直哉
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大切なものこそ目にはさやかなれこの目この肩このふくらはぎ
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くちづけは甘き陶酔蜜を吸ふみつばちににて飽くことのなき
3
白鳥のゆくへ知らずもさびしさの果てなんくにへ飛び去りぬらむ
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置く露の消ぬべきものと知りながらなほなつかしき鬢のほつれ毛
8
言ひかけたそのくちびるをくちびるでふさげば夜はすみれのにほひ
7
希望とふ羽をもつ鳥たましひの奥処にありてひそかにうたふ
5
半身をぬらしてきみの差し掛くる傘にはいれば世界はふたり
9
来む世には雌雄同株の野の百合のすがたにてこそ生まれかはらめ
5
をんなもすなる派手なルージュといふものををとこもしてみんとて したいな
4
ほたる見にゆきませうよとさそひ来る洗ひ髪よりしづく垂りつつ
10
たまきはる命なりけり売られゆくうるめいわしの眼は潤みたり
4
野の百合の咲く花野こそ浄土なれ働きもせずつむぎもせずに
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スマートフォンかざしててらすぬばたまの闇の奥処にひかる猫の眼
6
燃えつきて灰になるまで見まもりぬわかれし人の文を焼きつつ
9
うながされ子らは帰りぬ夕暮れの砂場にのこるトンネルひとつ
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足おそき人にうまれて雨乞ひのダンスを踊る大会前夜
4
二階より伝つておりる縄梯子この世の外のいづこなりとも
7
いつまでも来ぬバスを待つをさなごを背負へば重し睡魔に負けて
5
暗闇に慣るるまでの間ながかりき涼をもとめて
葦簀
(
よしず
)
の
庇
(
ひさし
)
2
ここが足ここが頭と助産師の触診の手のあたたかく撫づ
10
反省の色は何色 全体に霞みがかつた夕空の青
14
サンダルを素足に履いて子どもらのシャボン玉吹く夏は来にけり
4
庭先に干す衣にもジャスミンのにほひうつれば夏の範疇
9
水仙のかをりただよふリビングに離婚届の紙薄かりし
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伺へど休診の札かかりをり熱のある子の手を引きかへる
5
近寄れば塀の上より飛び降りて悠々として歩み去る猫
4
聖堂に「憐れみたまへ」の声満てり愚かの神に祈るべけんや
2
軽やかな筏に乗りて漕ぎいでな夏の一大紺円盤へ
3
マルクスのヘーゲル批判読みあきて空見上ぐればひとすぢのくも
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かきくらし地軸は揺れて幕裂けつなにゆゑわれを見捨てたまひし
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