松本直哉
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「きらひなのさういふところ」といはれたり不貞寝して聞く遺愛寺の鐘
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おぼろなる記憶の底にきこゆなり赤子のわれを呼ぶ祖母のこゑ
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かろやかに走り抜けたり太陽のコロナのやうに髪なびかせて
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「結んでよ後ろの紐を」あらはなる背中見せつつ言ひたまひける
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生ましめしのちのよふけのしづもりに老助産師のたばこくゆらす
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陣痛に耐ふるつまの手にぎりをり痛みを分かつすべあらなくに
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とり入れををへし田畑に雀らのさわぐを聞けば秋更けにけり
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経糸たていと緯糸よこいともなき鳥たちの声の織りもの聞けども飽かぬ
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ひるよるのけぢめもつかぬ薄明かりいのちの果てのけしきとぞ見る
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つり革にとどく背丈となりし子の腋窩の白く夏さりにけり
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泣きぼくろつついておこすとなりの子金曜五限睡魔のきはみ
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言霊の幸ふ国に聞き飽きる 美辞も麗句も誹謗も揶揄も
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二日めのおでんのやうにしみてくるやさしく気づかふあなたのことば
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いかにせんうかがひしれぬものありて人のこころは月の裏側
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ひかり曳くものこそなべてかなしけれ流るる星もほたるのむれも
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イヤフォンをシェアしてバッハ聴きをりぬ予定日すぎて子を待ちながら
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腰骨の上に手をおき抱きよせる サルサのリズム 波うつ体
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抱きあげて高いたかいをするたびにはじけるやうにわらひたりけり
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あさぼらけ比叡のやまにたつ霧のふかくぞひとを思ひそめてし
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あひ見てののちのおもひはすみれいろ日の出のまへのひさかたの空
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ツンドクをツンドラと読みまちがへてガリア戦記に雪のふりつむ
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天の川白しと言ひて仰ぎみつ手をたづさへて川わたるとき
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不可分のふたりなりけりかんづめの鰯のやうに身を寄せあつて
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もうすっかり秋なのですね江ノ電に待ち合はすれば日影のながく
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足ぬぐふそのくるぶしの白さゆゑねむれぬ夜をすぐしてけりな
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差しみづするやうにして息をつぐ逢瀬のまへの胸の高鳴り
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大切なものこそ目にはさやかなれこの目この肩このふくらはぎ
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くちづけは甘き陶酔蜜を吸ふみつばちににて飽くことのなき
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白鳥のゆくへ知らずもさびしさの果てなんくにへ飛び去りぬらむ
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置く露の消ぬべきものと知りながらなほなつかしき鬢のほつれ毛
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