松本直哉    フォロー 10 フォロワー 10 投稿数 381

見し夢はうつつならなむしんしんと肺碧きまでヘレスポントス 

うつすらと霜のおりたる冬園にほのかにあかきシクラメンの花 

いまだ土をふむこと知らぬみどりごの足に触るればこころやはらぐ 

イブの日のデートは野宿ひさかたの星星の降るベツレヘムの丘 

有り明けの空にかかれる月かげの消えかへりつつもの思ふころ 

さくさくと小口にきざむ青ねぎのかをりすがしく冬さりにけり 

朝寝髪くしけづりつつ子の話す夢のつづきはわたあめのやうに 

すみれほど小さき人に生まれなばすみれの色の靴を履かまし 

夢はいつもかへつて行つた白壁に干し柿熟れる遠いふるさと 

なにものももたずに生まれなにものももたず死ぬこそいのちなりけれ 

火事あとをみるためにするまはりみち月かげしろく廃墟を照らす 

住むひともなくて荒れたる庭なれどいま盛りなりさざんかの花 

知られじな夜もすがら吹く木枯らしに散るもみぢ葉のつもる思ひを 

ふたご座のひととあひみるみづうみのほとりにたてば夕波千鳥 

白珠の散るかとぞ見る小夜しぐれぬれて帰りし妹が黒髪 

ひとつづつ蝋燭ともす長き夜の思ひまされど逢ふすべのなき 

めづらしきシャボンの泡のにほひする霜月尽の夜の仕舞湯 

霜さゆるあしたの空の結ぼれを解きつつなくや朝鳥の声 

みづからのとげにきずつく柚子なれどなほあまりあるかをりなりけり 

散り紅葉ひとひらひろふ暮れがたのからくれなゐに染まるわが恋 

虫の音もたえて久しくなりにけりものみな枯るる真夜のしづもり  

うつし世のほとりにいこふ水鳥の羽交ひにあはき冬の日の照る 

ぬぎすてて裸にちかくなる樹樹の凛として佇つ霜月の空 

散りぬれど色こそまされ朝露にさくらもみぢはしとどぬれつつ 

たまきはる命はかなく「死と乙女」聴く小夜ふけてあはき菊の香 

しぐれ降る生駒の山の峰かくれ見ねど恋しき君がまなざし 

しらじらと月かげさゆる道行きをかへりみすればすべては枯野 

初しぐれ過ぎにしのちのしづもりにもみぢ葉の散るおとのかそけく 

もみぢ葉のいかだにのつて竜田姫去りゆく秋の川風さむき 

にほへども散りそめにけり初冬のいろはもみじは風のまにまに