川野三郎
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歌人であるよりも、三十一文字の詩人でありたい。
かつて朔太郎曰く「詩はただ、病める魂の所有者と孤独者との寂しいなぐさめ」と……

いらっしゃいベトナム生まれの友としてながく一緒にくらすクッション
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寂寞に地平線までおほはれてサナトリウムのくれてゆく夏
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むきだしの内臓ひとつひきしまりふるえるものはいななきか愛か
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冬なのかそれとも春かまどひつつ風はつめたい日だまりに鳩
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文芸は時をぬいとる綾なれば茂吉のあとをたどる邦雄と
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水槽におつるしづくにひえびえとすそをひきよす肌の鱗に
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トルクメニスタンといふはいづくなれ私はここにいます港に
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ひきだしのおほくもあるか雑居ビルならぶ四谷に浅羽通明/古書窟どらねこ堂
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生きる貝ないならせめて道化にもなれよ私にいらない私
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さそはれてたどりゆく肌どこまでも甘美なる香をたたふスカート
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思ひでの恋人たちをつれだして三人目には君とカラオケ
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アイドルの耳目さわがす風聞にファンはかりたてられて不安に
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トランプよいまは羽ばたけ宇宙まで敬礼するはイーロン・マスク
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電熱のぬくみに抱かれねむる夜半あなたと夢のネクタリン果汁
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あるじなき蜘蛛の巣いづれこの国も乱れてゆくか吹きつくる風
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轟轟とたかまる声をわけながら吾がこころにはたぎる沸沸
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イマジナリー彼女の熱にほだされて孵化した夢にいなないた馬
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幸福のかたちをひとつしめしては寒くはないかゆれる水仙
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未来にはあとかたもない労働のさくさくとして刻まれる時
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さむざむとしたる月日はあけざるも母の煮ものにいのちなぐさむ
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荒野にてあらむいいねもいらぬから不安と不満のふきだまりより
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どうせこの花も実りはしないからなにもうらまぬシニカルな恋
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時空をばいつかふみこえ群青の空にあなたと水上庭園
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君がため愛と誠をささげたくなんなら揚げてもおいしいですよ
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紙をすくいたつきははや忘れられ連綿たるはただ文字のつら
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想念は風のごとくに吹きさりてノートの隅にのこることの葉
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あなたにはもうとどかない歌ですが紙ひこうきにをりて空へと
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さんさんと日のふりそそぐ公園にはつらつと声あがる未来よ
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人生をくだるきざはしどこまでもこころにそふは君の面影
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むなしさはひたひたとして水槽のイメージがある空無でなしに
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