医師脳(いしあたま)
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 半世紀以上も昔のこと。
 青森高校で古文を習わされた。教師の名は忘れたが、脂ぎったオジサン顔と渾名だけは覚えている。
〇「無駄だよ」と十七のころ厭ひたる古文の教師の渾名は「ばふん」
 そんな生意気盛りが古希をすぎてから短歌を詠もうとは……。
「一日一首」と詠み続け、気づけば(内容はともかく)数だけは千首を超えた。
 いわゆる「白い巨塔」で生息していた頃の習慣だろうか。
 自作の短歌に『しちじふのてならひ』と名付け、医師脳(いしあたま)を号した。
〇七十歳の手習ひなるや歌の道つづけてかならず辞世を詠まむ
〇満帆に〈老い風〉うけて「宜候」と老い真盛り活躍盛り
〇うれしきは毎朝いるる珈琲に「おいしいね」と言ひて妻が笑むとき
〇生き甲斐が働き甲斐なる生活に「老い甲斐あり」とふ痩せ我慢もなす
〇「先生」と呼ばれ続けて半世紀いまや符牒のやうなものなり
〇「日々一首」と詠み続けたし一万首。吾も百寿の歌詠みとならむ
〇人生の川にも澪木(みをき)を立つるごと刻舟とならざる一日一首を
〇老いはてて彼も汝も誰か薄れ去りいずれ消ゆらし吾の誰かさへ

西班牙や葡萄牙らを制覇せし英吉利と阿蘭陀に覇権うつりき
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ブラジルがポルトガル語の訳とへば大航海時代のトルデシリャス条約
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大航海時代に奴隷貿易も盛んになりしは不幸のきはみ
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かつて黒き黄金とめでられし胡椒なり肉の保存料ともなると知りたり
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西欧にて胡椒は肉食に不可欠な黒き黄金とも言はれき をかし(医師脳)
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本を読みそのポイントを短歌うたに詠む。これぞあたまの養生ならむ
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江戸の町の人口密度を支へしは稲作技術と民族性か
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米バブルはじけて起こりしインフレに向かふ吉宗が享保の改革
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戦なき元禄の新田開発で湿地は田となり城下を広ぐ
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徳川の食料づくりの稲作は米本位制の「貨幣」なるらむ
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戦国の山城を築きし大名は棚田作りて石高増しぬ
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いにしへの氾濫せし原は田にかはり原風景といつしか呼ばる
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雨おほきモンスーン・アジアの日本はやがて瑞穂の国と呼ばれき
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種籾の生む無尽数むじんずの米粒が日本人の主食となりき
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縄文の気温低下にまほろばは稲作ひろまり国となりたり
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稲作の価値は食から富を生みムラの争ひの種にもなりき
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稲作の重労働は縄文のまほろばの民には厭はれしとふ
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呉に負けし越の民らは日本へ来て稲作の技術を広めしとふ
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縄文人の澱粉源らし「URI」の語の響きは残りうるち米へと
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日本に稲作文化のなかりせば卑弥呼もおらず万葉集さへ
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仏間にて香偈かうげを唱へそののちは三唱礼さんしやうらいまでCDにて聞く
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農業は人口増やして村となし富のあらそひや戦も起こしき
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穀物の虜になりて人類は「保存」を覚え「財」を意識す
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穀物は光合成を省エネ化し炭水化物に富むと知りたり
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史実とふメソポタミアの文明は狩猟から牧畜そして農業へ
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飢饉ゆゑに重労働なる農業を太古よりやむなく始めしならむ
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種落ちぬ「非脱粒性」の発見が農業起源とふ説にうなづく
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枕辺に佞武多ねぷたばやしと虫の音と涼風かよふ今日は立秋
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生くるため固き葉を食む牛たちの四つの胃による反芻の妙
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固き葉を分蘖ぶんげつさせて増殖する進化を遂げしイネ科植物
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