医師脳(いしあたま)
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 半世紀以上も昔のこと。
 青森高校で古文を習わされた。教師の名は忘れたが、脂ぎったオジサン顔と渾名だけは覚えている。
〇「無駄だよ」と十七のころ厭ひたる古文の教師の渾名は「ばふん」
 そんな生意気盛りが古希をすぎてから短歌を詠もうとは……。
「一日一首」と詠み続け、気づけば(内容はともかく)数だけは千首を超えた。
 いわゆる「白い巨塔」で生息していた頃の習慣だろうか。
 自作の短歌に『しちじふのてならひ』と名付け、医師脳(いしあたま)を号した。
〇七十歳の手習ひなるや歌の道つづけてかならず辞世を詠まむ
〇満帆に〈老い風〉うけて「宜候」と老い真盛り活躍盛り
〇うれしきは毎朝いるる珈琲に「おいしいね」と言ひて妻が笑むとき
〇生き甲斐が働き甲斐なる生活に「老い甲斐あり」とふ痩せ我慢もなす
〇「先生」と呼ばれ続けて半世紀いまや符牒のやうなものなり
〇「日々一首」と詠み続けたし一万首。吾も百寿の歌詠みとならむ
〇人生の川にも澪木(みをき)を立つるごと刻舟とならざる一日一首を
〇老いはてて彼も汝も誰か薄れ去りいずれ消ゆらし吾の誰かさへ

雨おほきモンスーン・アジアの日本はやがて瑞穂の国と呼ばれき
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種籾の生む無尽数むじんずの米粒が日本人の主食となりき
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縄文の気温低下にまほろばは稲作ひろまり国となりたり
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稲作の価値は食から富を生みムラの争ひの種にもなりき
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稲作の重労働は縄文のまほろばの民には厭はれしとふ
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呉に負けし越の民らは日本へ来て稲作の技術を広めしとふ
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縄文人の澱粉源らし「URI」の語の響きは残りうるち米へと
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日本に稲作文化のなかりせば卑弥呼もおらず万葉集さへ
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仏間にて香偈かうげを唱へそののちは三唱礼さんしやうらいまでCDにて聞く
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農業は人口増やして村となし富のあらそひや戦も起こしき
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穀物の虜になりて人類は「保存」を覚え「財」を意識す
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穀物は光合成を省エネ化し炭水化物に富むと知りたり
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史実とふメソポタミアの文明は狩猟から牧畜そして農業へ
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飢饉ゆゑに重労働なる農業を太古よりやむなく始めしならむ
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種落ちぬ「非脱粒性」の発見が農業起源とふ説にうなづく
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枕辺に佞武多ねぷたばやしと虫の音と涼風かよふ今日は立秋
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生くるため固き葉を食む牛たちの四つの胃による反芻の妙
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固き葉を分蘖ぶんげつさせて増殖する進化を遂げしイネ科植物
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イネ科の葉はケイ素を取り込み棘をなし草食動物が激減せしとふ
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木から草へ双子葉から単子葉へ促成めざす植物進化
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地殻変動が太古の森を草原に変へそれにともなひ動物も進化す
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変異せしヒトツブコムギの発見がヒトに農業を示唆させしとも
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地球史に植物史ありての人類史。その文明史などほんの束の間
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「人類史の陰に植物史あり」と聞くも地球視座での主役は如何に
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稲垣栄洋(著)『世界史を変えた植物』に物の見方の面白さ知る
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世にあふるるみそひともじにこめられし圧縮データは解凍されてこそ
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手を引かれ健診うくる媼は九十一歳くじふいち「転ばぬように」と声をかけ送る
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ひる過ぎに激しき雷雨が襲ひきてクーラーある居間に妻と籠れり
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保険証の二割負担の逓減にありがたくあり寂しくもあり
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ありがたくも医療保険証をよく見れば三割負担が二割に減りぬ
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