但馬吟
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昼などよく自分がひどくちいさな羽虫のやうに感じる
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「本買ふな」父の云ひして渡しける金で詩抄を買ひにけるかも
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無駄遣ひせぬやうにとふ父の金で春夫詩抄を買ひにけるかも
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おくれ毛のくはしく顫(ふる)ふ娘子(をとめご)の眺めつつをれば千年(ちとせ)経ぬべき
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維持費用に追はれてゐるてふふるさとの駅舎に響く階段式昇降機(エスカレタ)の音
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倦みごとを忘れさするがに妻と子と一軒家をし欲しくもあるかな
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倦みごとを仕方なしにと割り切れる人間性を欲しくもあるかな
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枇杷の木は高くなりけり秋の陽の澄める庭にて眺むる枇杷の木
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車窓てふ銀幕ながれ、象徴のごとく南天しきり見つくる
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目を閉ぢつ、ぱつと心に浮かぶもの黒き塊そつと目を開けぬ
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牧水のうたの三首を口遊み君ゆくうみべ、かろく、素足で
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円空のつくりたまひしみ仏を一つ二つ三(み)つ並(な)め拝みたし
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病葉(わくらば)はその生命(いのち)をば吸ふがごと黄なすかがやき、秋もぞ来るとふ
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「悲しくてやりきれない」てふレコードを遺影に死なむわれさうしなむ
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曇りせし夜の天蓋くだくごと少女が声は聞かくしよしも
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かなしきは教養主義を掲げたる学友のもつ差別感情
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新しきビルの建ちたる都会の日にゆめ変はるなと願ふふるさと
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日記帳(ダイアリ)に天候書くべくカーテンを開けぬる昼の倒錯ぞかし
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また一つしのびかねては歌ひつつ歌ひつつをらむ秋の夜長よ
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秋の夜の読書ながびき紙面の上(へ)にくろき魚の群れ泳ぐ見ぬ
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少女子(をとめご)がねくたれ髪を梳(と)かしたるあから曳く朝しづかなる朝
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うち廻るメリイゴウランド馬たちは夙(つと)陥落せし国よりか来けむ
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万葉集いにしへびとの喜楽哀こころ沁みつつ読む万葉集
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栴檀(せんだん)の散りにけるがに待ちわびて贈られし風鈴しきり鳴る
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他人言(ひとごと)を繁み事痛(こちた)み懐(ふところ)に新調の刃ひとつ収めむ
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われのみや人であらざる心地してゆゑもなかるに笑ひころげみる
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わけもなく火遊びをせしわが後ろに警備員立ち微笑まずゐる
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烏瓜みのる季節は何かなしに蛇(じゃ)の出でむ野にひとり入りにける
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吾(あ)の歌をよくぞ嘲(わら)ひき、友人と教員と、鳩も全員殺す
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白玉の瞳しんしん雪原の氷割れして湖底(うなそこ)あらはる
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