中田満帆
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森忠明に師事。歌集「星蝕詠嘆集」、歌誌「帆(han)」発売中。現在、寄稿者募集中(連作のみ)。

犬を抱くようななぐさみ多かったりゆかこのゐない町が暮れゆく
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愛語なく昏くなりたる室もはや孤独に甘えられずおり
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われを憎む妹たちの夕月を洗面器にて保存し眺む
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I wanna be with 繰り返して猶答えでず海のむこうへ飛ぶゆかこかたち哉
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別離への餞たればいちまいの債務証書をきみに送らん
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古帽のなかにて眠る猫いまだ勝ち得ぬことを慰みしかな
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地上にて生きるせつなをひとり食む黒葡萄の眠りうたあり
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時も凪ぐ夜更けの海を眺めやる一人称を棄て去りながら
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ひとの名を忘るしもつき机上にてミニカーいちだい消息を絶つ
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旅に病める芭蕉のあまた秋霖はかつてのわれを連れ去り給う
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ひとの世を去ることついにできずただ口遊めるのはただの麦畑
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ひとひとり殺して帰えるひともなくふかき斜面に家は明るむ
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日本語の孤愁へひとり残されて犀星の詩を口遊むのみ
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そろそろと梯子を降りる地上には逝き遅れたる夏蝶のかげ
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3階の窓より小雨眺めつつ世界にひとり尿しとまりており
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まだ生きる蚊の一匹がわれを追いふと恥ずかしい秋そのものが
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やまぶきの光りのなかをしとやかなけもののようなきみの黒髪
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わが知らぬ土地にてゆかこ老いたれる夜汽車みたいなひとの生かな
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生田川上流に秋を読みただ雨を聴く水に宿れる永久ということ
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駈けてゆく女の子たちかな秋の日の選挙ポスターいちまいやぶる
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干割れたる道の果てにて蟻歩く北半球の地図を抱えて
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少しでも幸せであればいいのだと水切りをするぼくらの時間
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星月夜きみの夢へと訪れていつまでもただ手をふってたい
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感傷にふけるわけでもないけれどわたしは過古をアカシアと呼ぶ
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うつし世にもはやこがれるひともなく黒帽子の埃を払う
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殺意さえおもいでならん河下の鉄砲岩に拳を当てる
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中年になりぬるわれよ地平にて愛語のすべてふと見失う
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たが母も血より淋しきもの通いかつてからすのからかいに泣く
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妹らの責めるまなじり背けつつわれは示さん花の不在を
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失せばいい はらからどもの彼方より熾きへ向かって歩むぼくらは
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