香月董花
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雲を呼び風が走れば雨となり跡立つ波の今は行くという
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立ち騒ぎうつるいとまの水かがみ ゆうべの雲はひとときに行く
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ほの白く昔のわれは空蝉の葉裏に宿り羽となるまで
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黒つやのてんとう虫は六月のむくろとなりて地に落ちてあり
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ためらいはこの手にふれてまたたくも来てはまた去る蛍いとおし
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夏をまつの根の闇に蝉の子は最後の夢を今日とむさぼる
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日のうちは光のなかを浮き島の影から影と移りたたずむ
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橋上の灯火の列はかがやいて眩く遠く暗闇を行く
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川音とかじかはたえず流るるも鳴くとも何を思わなくとも
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ゆく闇に影は見えねどゆき逢えばそれと知らるる幽霊蛍
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もとの根も傾くばかり椋鳥の葉末もさわに騒ぎつつあり
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雨の間を夜ゆく街のひややかに手びさし透かし光まばゆき
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一日いちじつの雨は一夜に流れ去り 群れ雲ゆきて 夜に雨ふる
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人なれて近きにとまる古めじろ一目の間またたきに立つ
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足早に夏は来るらしこの頃も古うぐいすのとよむ葦原
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長らえば憂きよのくびききりもなく過ぎての春は夢のかぎりに 〈くびきりぎす〉
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逢わむ夜を思えば逢わむ飛ぶ鳥のはばたく夢につづく街の灯 〈あおばずく〉
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ほととぎす思いのそらに行きすぎて夜風を遠く音にきくとき
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建て替えの工事は明けて立ち替わり軒端を覗くつばめ忙し
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誰ぞ待つ街の通りに帰り来む隣どなりのつばめ睦まじ
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あけがたの網戸に影は草の葉か夜風に寄するくさかげろうか
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くまばちは斥候ものみくまなし この者は花ぬすびとかあくまで怪し
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銀幕の空に一すじ吹き流れつばめの跡は光斑ひかりの影か
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いつからと聞くともなくてしじゅうから空の下なる屋根の上にも
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物憂ものうにも午後の天気は聴くからに雨 雨 雨と止むに止まれず
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花咲けば花を羨み 鳥の音と鳥の命に思い慰む
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種いもの芽ぶきの夢もためらいも ひとつひとつに今は転がる
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冬越しの破れたてはは立ちかねての根にとまるほろほろのはね
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冬になれば冬ごもりせむ春来れば春待ちわびて浮かぶ歌かた
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いにしえのエルドのけもの 呼び声に にてかえらむ その呼び声に〈妖女サイベルの呼び声〉
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