Utakata
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岡久生
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行くバスの一瞬窓を
過
(
よぎ
)
りたる白くて淡い梨の
花群
(
はなむら
)
7
ひともとの木に紅白の花が咲くこともあるなり駅への坂道
8
山雀
(
やまがら
)
の枝伝い行く街路樹の桜の花は
勝
(
あ
)
げて数ふべし
10
なづの木のさやさやなびく川底に揺れる魚は空の上に眠る
8
亡き人と暗き道にて語り合う夢から覚めて涙に気づく
16
あてどない営みと知り繰り返し手を振っている人の苦しみ
9
夜明け前の冷えた地面に横たわる人の胸にある黒い塊
4
白い月のそばをゆっくり遠ざかる飛行機を見る人の悲しさ
12
冬の日の午後の日向の果ての無さ観音堂の鐘鳴り渡る
13
高行くや飛行機雲は夕陽受け送電線の彼方を進む
10
川の
面
(
おも
)
に白さ一瞬はじけ飛び
小鷺
(
こさぎ
)
が一羽
川上
(
かわかみ
)
に飛ぶ
10
街に出て見上げてみれば
黄葉
(
もみぢ
)
せるメタセコイヤは空に突き立つ
14
鉢植えのコーヒーの葉に秋の陽はゆらりと照りて風は止まりぬ
18
夜明け前上がれる雨に黒く濡れ青空映し光るアスファルト
7
ひよどりの羽ばたきながら動かざる梢の風は強く吹くらし
7
布団からはみ出た足の寒き朝ねじ巻き時計の音のひそけさ
13
夜の底光の溜まるバス停が遠くにありて遠雷聞こゆ
16
坂道の自分の影をゆっくりと追いかけゆけば草の香ぞする
13
平日のためのアラームが日曜の朝に鳴る 遠くて消しに行けない
9
朝日さす障子の白さ鬱のある人にも目覚めの時訪れる
18
メロディーがゆるりゆるりとほどけきり
静寂
(
しじま
)
満ちたり
小
(
ち
)
さきオルゴールにより
8
空に雲庭に花にら群れ咲いて我が唇にヘルペスのあり
17
花にらを屋根に咲かせて住む人の朝餉の膳の目玉焼きかな
11