オリオン村
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投稿数
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いつかまた戻ってほしい本にだけちいさく犬の絵を描いて売る
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真夜中に祖父は散歩をしたらしく月の匂いがしみたサンダル
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縦笛のように両手で子にもたれ音が出そうになるコッペパン
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終点の駅の窓から駅長が双眼鏡で見てるキツツキ
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裏側の闇を陽気な餅つきのうさぎで月はカモフラージュする
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窓際にビー玉を置き少年のころ見た夏を呼ぶ餌にする
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羽化をしてさてこれからという顔で鳴きだすどれも晩年の蝉
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修理する人も立ち寄る人も来てバイクショップで交差する風
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サンダルを波にとられて子は海の足のサイズを心配してる
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斬るというレシピに書かれた誤字を見て食材たちが身構えている
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羨望や嫉妬のかわりに渦を巻くようにこころに置いた巻貝
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QRコードのような木漏れ日を踏んでどこかに消えそうな犬
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短冊にやさしく招かれ風鈴の音になろうと思うそよ風
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先生の小言のあいだこころだけどこ吹く風がはこぶ校庭
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まだ誰もしらない星の通信を傍受するような聴力検査
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七月の朝のはやさに追い越され夜明けを運んでこない新聞
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蓋をするときに便器に落ちてゆき涙も排泄物だと気づく
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叩いたりそっと優しく濡らしたり雨にもきっと感情がある
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薄荷だけ出るドロップの缶のように淋しさばかり生みだすこころ
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ページ繰るかすかな音が本の虫たちの羽音のような図書館
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来世ではきれいな音の笛になるいくつも胸に穴があるから
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ひとつだけ持ってくものを考えるひとで混雑する無人島
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雨傘をかたむけきみは目を閉じて胸にある詩の芽に水をやる
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サービスのつもりだろうか淋しさと影を夕日は大盛りにして
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誘われてゆくバッティングセンターで表情だけは強打者のオレ
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この森で猫が宴をしていると思えば怖くない帰り道
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さよならと手を振るように運ばれるアゲハが空に揺らしてる翅
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窓辺には名前のしらない花がありあなたの好きな花と名付ける
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さよならは胸の水面に降る雨のようで波紋がずっと消えない
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瓶に挿す名もない花がこの町で最初に看取る生き物になる
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